近年、デジタル技術を活用した行政サービスの効率化が、地方自治体における課題となっています。少子高齢化や人口減少が進むなかで、自治体がどのように持続可能な行政運営を実現するかが問われています。自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なる業務効率化にとどまらず、住民サービスの質を高め、地域全体の活性化を目指す取り組みです。本記事では、自治体DXの基本概念やその必要性、さらには具体的な成功事例を詳しく紹介します。この記事を通じて、DX推進が必要な背景や知識を深め、実践の第一歩を踏み出す一助となることを願っています。目次自治体DXとは?自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して行政サービスを効率化し、住民の利便性向上を図る取り組みです。総務省が策定した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第3.0版】」では、DXを「自治体の社会課題を解決し、地域の持続可能性を高めるための重要施策」と位置づけています。具体的には、次の7つの項目を重点取組事項として挙げています:自治体フロントヤード改革の推進:「書かないワンストップ窓口」など、住民と行政の接点(フロントヤード)の利便性向上。情報システムの標準化・共通化:各自治体間の連携を強化し、システム運用コストを削減。公金収納におけるeLTAX*の活用:税金支払いの電子化による効率化。マイナンバーカードの普及促進:身分証明やオンライン手続きに活用。セキュリティ対策の徹底:サイバー攻撃対策を強化し、安全な運用を確保。AI・RPAの利用推進:自動化技術で業務効率化を実現。テレワークの推進:職員の柔軟な働き方を支援し、運営効率を向上。*eLTAX(エルタックス):地方税ポータルシステムの呼称で、地方税における手続き、インターネットを利用して電子的に行うシステム引用:総務省|自治体DXの推進近年、人口減少による自治体職員数の減少や、厳しい財政状況への対応がDX推進の背景として挙げられます。特に、紙ベースの手続きが主流の自治体では、サービス提供の遅れが課題であり、迅速なデジタル化が求められています。自治体DXの取り組みイメージ自治体がDXを推進することで、住民サービスの向上や業務効率化が進むとともに、地域全体の持続可能性が高まります。以下では、自治体DXの取り組みをイメージしやすくするための代表的な例を挙げています。なお、本記事の最後には具体的な事例も紹介していますので、ぜひご覧ください。行政手続きのオンライン化住民票の発行、税金支払い、保険の手続きなどをオンラインで完結させる仕組みを構築し、住民の手間を削減。業務プロセスの効率化AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:定型業務を自動化するツール)を導入し、膨大な事務作業を自動化することで、職員の作業負担を軽減し、住民対応に注力できる環境を整備。データを活用した地域課題の解決人口動態や生活環境のデータを活用し、高齢化が進む地域では医療・福祉サービスを強化、子育て世帯が増加する地域では保育所や学校の整備を優先するなど、地域ごとの課題に対応した政策を立案。なぜ今自治体DXが必要なのか?ここからは、なぜ今自治体にDXが求められるのか?について紹介します。コロナ禍で浮き彫りになったデジタル化の遅れ新型コロナウイルス感染症拡大時に実施された「特別定額給付金(全国民を対象に一律10万円が支給された緊急経済対策)」の支給では、紙書類の処理が中心の自治体で支給が遅れる事例やオンラインの受付を中止する自治体もありました。こういった緊急時の対応で問題が起こったこともあり、各自治体ではデジタル化の遅れを解消しDX化する必要性が一層高まったのです。参考:現金10万円給付 オンライン申請 各地で課題が浮き彫りに | NHKニュース生産年齢人口の減少による生産性向上の必要性日本では、少子高齢化の進行により、生産年齢人口(15歳から64歳)は平成7年に8,716万人でピークを迎え、その後減少を続け、令和3年には7,450万人となり、総人口の59.4%を占めるまで減少しています。2050年には5,275万人にまで減少することが見込まれています。引用:総務省による令和4年版高齢社会白書(全体版)、令和6年11月30日それに伴い自治体の職員数も減少しています。平成6年(1994年)には約330万人いた地方公務員は、令和5年(2023年)には約280万人に減少しました。今後も生産年齢人口の減少が予想されるなかで、自治体職員一人当たりの業務を効率化させることや各種行政手続きをDXすることが急務となっています。参考:総務省|令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少地方公共団体の行政改革等|地方公務員数の状況住民ニーズの多様化と期待の高まり自治体にDXが求められる背景の一つとして、近年、民間企業がオンライン化やデジタル化を進める中、住民が行政にも同様の利便性や迅速さを期待するようになったことが挙げられます。例えば、銀行のオンラインバンキングや医療機関のオンライン予約が可能になりつつある社会において、役所の手続きが紙書類中心で平日のみ対応という状況では、住民の不満を招きかねません。また、高齢者を含むデジタルに不慣れな層にも配慮しつつ、利便性の高いサービスを提供することが求められています。たとえば、一部自治体ではAIチャットボットを導入し、住民が24時間いつでも問い合わせできる環境を整備しています。こうした取り組みを拡大することで、多様化する住民ニーズに応えることが可能です。DXは、住民との接点をデジタル化することで、利便性や迅速性を提供するだけでなく、多様化する住民ニーズに応じた柔軟な対応を可能にします。その結果、行政サービスへの満足度が高まり、自治体への信頼が強化されることが期待されます。気候変動や災害リスクへの対応日本では毎年のように台風や豪雨、地震などの大規模な災害が発生しており、その被害規模は年々拡大しています。また、気候変動による災害リスクが年々高まるなかで、自治体には迅速で的確な対応が求められています。こうした状況で、DXは災害対応において大きな力を発揮します。例えば、災害発生時に、避難経路や避難所の混雑状況をリアルタイムで表示するデジタルマップを用いることで、住民が迅速に安全な避難場所を見つける手助けができます。また、SNSデータをAIで分析し、被害状況を即座に共有する仕組みも進められています。これらのデジタル技術を活用することで、住民の安全を確保しつつ、自治体の災害対応能力を大幅に強化することが可能になります。自治体がDXに取り組むメリットこれまで自治体にDXが求められる理由を説明しましたが、ここからは、DXに取り組むことで自治体や住民が得られる具体的なメリットについて詳しく紹介します。業務効率化とコスト削減自治体が業務をデジタル化すると、事務処理の時間短縮や職員の負担軽減といった大きなメリットが得られます。従来手作業で行われていた膨大な事務作業も、自動化や効率化により迅速に処理できるようになり、業務全体の生産性が向上します。また、RPAを導入することで、繰り返し発生する単純作業を自動化でき、職員がより付加価値の高い業務に集中できる環境が整います。この結果、住民サービスの向上に直結するだけでなく、自治体運営にかかる人件費や運用コストの削減も期待できます。デジタル化を進めることで、自治体が限られた資源を最大限に活用し、効率的かつ持続可能な運営を実現できる点は、DXの大きなメリットと言えるでしょう。住民サービスの向上と利便性の拡大自治体がDXに取り組むことで、住民サービスが大きく向上し、日常生活の負担が大幅に軽減されるといったメリットがあります。具体的には、次のような取り組みが住民にとっての利便性向上につながっています:各種手続きのオンライン化マイナンバーカードの普及により、税金の支払い、住民票の取得、各種証明書の申請がオンラインで可能となり、役所に足を運ぶ必要がほとんどなくなりました。公的サービスのデジタル化健康保険証は2025年12月までに「マイナ保険証」に完全移行予定で、医療機関での受付がよりスムーズになり、行政手続きの利便性も向上しています。日常生活へのデジタル技術の導入例えば、AppleがiPhoneにマイナンバーカードの機能を搭載予定で、スマートフォンから公的サービスへのアクセスがさらに簡単になります。このように、自治体がDXを推進することで、住民の利便性や生活の質が向上し、手続きの効率化や公的サービスの利用しやすさが飛躍的に改善されています。▼マイナ保険証やマイナンバーカードのiPhone搭載に関してはこちらの記事をご覧ください保険証12月2日廃止、マイナ免許証も来春登場! 要点を徹底解説マイナカード機能ついにiPhone搭載へ|私たちの生活は何がどう変わる - ポケットサイン株式会社災害対応と住民の安心確保自治体がDXに取り組むことで得られるメリットの一つが、災害対応力の向上です。DXの導入により、災害時のスピード感ある対応と正確な情報提供が可能となり、住民の安心感が大幅に高まります。具体的には、次のような取り組みが災害対応の強化につながります:迅速な情報提供による混乱の軽減スマートフォンを通じた緊急通知や、デジタルマップを活用した避難経路の表示により、住民は状況に応じた素早い行動が取れるようになります。これにより、災害時の混乱を最小限に抑えられます。避難所運営の効率化デジタル管理システムを導入することで、避難所の空き状況や滞在者の情報を一元管理でき、支援物資の配分や混雑緩和がスムーズに行われます。住民は適切な避難場所を素早く見つけることができ、自治体の負担も軽減します。このように、DXを活用した災害対応の進化は、住民の安全と安心感を支えるだけでなく、自治体の信頼性や運営力の向上にも大きく貢献します。自治体DXの取り組み事例5選自治体DXに取り組んでいる事例を知ることは、他の自治体が取り組みを進めるうえで重要な参考になります。以下に、国内における自治体DXの取組事例を紹介します。宮城県|防災アプリで紙受付に比べ避難所受け入れスピードが14倍に宮城県は、2024年11月18日より避難支援アプリ「ポケットサイン防災」を県内全35市町村で導入し、災害時の住民支援体制を強化しました。ポケットサイン防災はマイナンバーカードを活用して住民情報を正確に把握し、個別の避難指示をスマートフォンへプッシュ通知する機能を備えています。また、避難所ではQRコードを読み取るだけで簡単に受付が完了し、自治体は避難者の状況をリアルタイムで把握できます。さらに、Lアラート(災害情報共有システム)との自動連携により、自治体が発信する災害情報が即座に住民に届く仕組みも整備されています。この取り組みは、住民の安全確保と自治体の防災対応力の向上に大きく寄与しています。2022年にポケットサインが実施した避難所受付の実証実験では、従来の紙による受付では1分間に3.2人が対応可能だったのに対し、QRコードを利用した受付では1分間に45.5人の受付が可能という結果が得られました。これにより、紙の受付と比較して約14倍のスピードで受付を行えることが実証されました。これにより、自治体は住民がどこに避難していても、避難状況を一人ひとり正確に素早く把握できるようになります。参考:宮城県が県内全域で「ポケットサイン防災」導入富山県射水市|ペーパーレス化で年間約48,400千円コスト削減見込み富山県の射水市では、ペーパーレス推進により業務効率化とコスト削減を目指した取り組みを進めています。電子決裁の導入により紙の使用を抑え、会議資料や契約書のデジタル化を推進した結果、印刷費・用紙代の50%削減により年間約48,400千円のコスト削減が見込まれています。また、テレワーク環境や無線化の整備を進め、多様な働き方を支援する体制も構築中です。これらの取り組みは、ペーパーレスの直接的な効果だけでなく、自治体全体のDX推進における効率化の好例として期待されています。参考:ペーパーレスの推進について茨城県つくば市|RPAにより約146時間の業務時間を削減つくば市では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して、繰り返し発生する定型業務の自動化を進めました。特に「事業所新規登録業務」では年間3,900件の処理を自動化し、約146時間の業務時間を削減。「個人住民税関連業務」や「勤怠関連業務」でも、データ入力や照合作業を効率化し、手作業によるエラー防止と作業時間の短縮を実現しました。RPA導入により、職員の負担が軽減され、残業時間削減にも寄与。空いた時間を市民対応や新たな業務に活用できるようになりました。また、職員の間では「業務の煩雑さが軽減された」との声が上がり、RPAのさらなる活用や他業務への展開が期待されています。この取り組みは、RPAによる効率化と職員の働き方改革の両立を実現する成功事例として、他自治体への普及が目指されています。参考:RPA を活用した定型的で膨大な業務プロセスの自動化 共同研究実績報告書自治体における RPA導入ガイドブック福岡県福岡市|生成AIの活用で作業時間33.75%削減福岡市は、生成AI「QT-GenAI」を活用し、職員の業務効率化を図る実証実験を実施しました。この取り組みでは、職員向けに生成AIの活用研修を行い、行政業務内での活用方法や生産性向上に関するプロンプトエンジニアリングの開発・検証を行いました。その結果、職員からは作業時間が平均33.75%削減され、業務成果・品質が平均36.56%向上したとの報告が得られました。特に、議事録のフォーマット作成、文書の校正や添削、英語資料の作成業務、プレゼンテーションのFAQ作成などの業務で効果が確認されています。参考:福岡市、生成Alの実証実験で平均33%の業務削減効果を実感 | アンドドット株式会社のプレスリリース山口県周防大島町|福祉タクシー利用券デジタル化の取り組み山口県周防大島町は、福祉タクシー利用券のデジタル化を進めるため、ポケットサイン株式会社と連携し、デジタル身分証アプリ「ポケットサイン」を活用した実証実験を開始しました。この取り組みでは、マイナンバーカードを用いてデジタル身分証を発行し、福祉タクシー利用券をアプリ内で管理・利用できる仕組みを目指しています。紙の利用券が不要となることで、紛失リスクの低減や利用者の利便性向上が期待されています。また、紙ベースの事務処理が不要になることで、自治体の業務効率化にもつながります。加えて、デジタル化の効果として、サービスの質向上が期待されていることが報告されています。参考:山口県周防大島町で福祉タクシー利用券デジタル化の実証実験スタート - ポケットサイン株式会社自治体DXに活用できる補助金・交付金これまで自治体ごとの具体的なDX取り組み事例をご紹介してきましたが、こうした自治体DXを進めるためには、補助金や交付金の活用が欠かせません。そこで最後に「デジタル田園都市国家構想交付金」に焦点を当て、その特徴と活用のポイントをご紹介します。なお、他にも「地域デジタル基盤活用推進事業」や「スマートシティ推進事業」「高度無線環境整備推進事業」など、多様な支援制度が用意されています。これらを組み合わせることで、自治体の特性や課題に応じた最適なDX推進が実現できます。デジタル田園都市国家構想交付金「デジタル田園都市国家構想交付金」は、自治体がデジタル技術を活用して地域課題を解決し、持続可能な社会を構築するための支援制度です。この交付金には以下の3つのタイプがあり、自治体の状況に応じた柔軟な利用が可能です:優良モデル導入支援型(TYPE 1)他地域で実績のある成功事例や優良モデルを迅速に導入できる点が特徴です。たとえば、窓口業務のオンライン化や地域アプリの展開など、他の自治体が既に成果を上げている取り組みを参考にすることで、スムーズなプロジェクト推進が可能です。データ連携基盤活用型(TYPE 2)地域全体でデータ連携基盤を構築し、防災情報提供や観光案内サービスの展開など、複数の取り組みを組み合わせて実現します。他の自治体の取り組みから効果的なデータ活用方法を学び、自地域に適応させることが可能です。デジタル社会変革型(TYPE 3)TYPE 2の条件を満たしつつ、地域全体の課題解決に寄与する先進的な取り組みを支援します。AIを活用した行政サービスの高度化やマイナンバーカードを使った新たなサービス展開が具体例です。他の先進事例を参考に、より効果的な施策を計画できます。この交付金の特長は、他自治体の成功事例を参考にしながら自地域の課題に応じた最適な取り組みを設計できる点です。たとえば、過疎地域でのスマート農業技術の導入や、観光地でのデジタル案内システムの整備など、全国で展開されている優良モデルを基にプロジェクトを進めることができます。参考:デジタル田園都市国家構想交付金について自治体DXが切り拓く地域の未来自治体DXが、住民サービスの向上(例: 手続きの待ち時間短縮)、業務効率化(例: 職員1人あたりの業務量削減)、地域全体の持続可能性向上(例: 地域産業の活性化)を実現する重要な取り組みであることをご理解いただけたでしょうか。今後、自治体DXがさらに進むことで、住民の利便性向上と地域の活性化が実現するでしょう。次の一歩として、適切な制度の活用を検討し、未来に向けた取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。ポケットサインはスーパーアプリで自治体DXを支援ポケットサイン株式会社が提供する「ポケットサイン」は、防災支援、地域振興、健康促進など、多様な住民サービスを1つに統合するスーパーアプリです。複数の行政サービスをまとめることで、住民の利便性向上と自治体の業務効率化を同時に実現します。「ポケットサイン防災」(宮城県での事例)や「ポケットサインタクシー利用券」(山口県周防大島町での事例)のほか、「地域ポイント」や「イベント受付」「自治会」「おしらせ通知」など、多彩なミニアプリが含まれています。これらのミニアプリは、それぞれ特定の課題解決を支援するだけでなく、統合プラットフォームとして自治体全体のDX推進を支えています。また、「ポケットサイン」は既存の他社サービスとの連携にも対応しており、自治体のさまざまなニーズに柔軟に応える設計が特徴です。「住民向けサービスを一元化し、DXを推進させたい」「特定の課題に対応したミニアプリを導入したい」とお考えの自治体の皆様は、ぜひポケットサインにご相談ください。▼ポケットサインのサービス概要資料はこちらからhttps://pocketsign.co.jp/contact/download/government▼問い合わせはこちらからhttps://pocketsign.co.jp/contact▼ポケットサインについてはこちらhttps://pocketsign.co.jp/