かつて「デジタル田園都市国家構想交付金」として知られていた補助金制度は、2024年10月11日に設置された「新しい地方経済・生活環境創生本部」により「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)」へと改称されました。しかし、この変更は単なる名称の変更ではなく、地方創生の新たなステージである「地方創生2.0」への移行を意味しています。これにより、日本各地の自治体が抱える課題に対し、より柔軟で戦略的なアプローチが求められるようになりました。本記事では、新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)制度の概要や採択の可能性を高めるための申請のポイントについて、自治体や事業者の皆様が活用しやすいよう、実践的な情報をお届けします。新しい地方経済・生活環境創生本部設置の背景【地方創生2.0】2014年、安倍晋三内閣の下で「まち・ひと・しごと創生法」が制定され、地方の人口減少や東京一極集中の是正を目的とした「地方創生」がスタートしました。しかし、10年が経過した現在も、東京圏への人口集中は続き、多くの地方自治体が人口減少や経済停滞といった課題に直面しています。こうした状況を受け、2024年10月に発足した石破茂内閣は、「地方こそ成長の主役」の考えのもと、「地方創生2.0」を掲げました。同年11月8日には、内閣に「新しい地方経済・生活環境創生本部」が設置され、地方創生2.0の具体的な施策の検討が本格的に始まりました。地方創生2.0は、従来の地方創生の枠組みを基盤としながら、デジタル技術の進展を活かし、地域の持続可能性と自立性を強化する新たな取り組みです。その柱となるのが、以下の5つの方針です。参考:令和6年11月8日 新しい地方経済・生活環境創生本部 | 総理の一日 | 首相官邸ホームページ地方創生2.0の基本構想の5つの柱1)安心して働き、暮らし続ける地方の生活環境の創造魅力ある働き方、職場づくり、人のつながりを起点とした社会の変革、楽しく働き、楽しく暮らせる場所づくり、年齢を問わず誰もが安心して暮らせる地域コミュニティの維持、災害から地方を守るための事前防災・危機管理などが含まれます。2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散分散型国づくりの観点から、企業や大学の地方分散や政府機関等の移転などに取り組み、地方への移住や企業移転、関係人口の増加など人の流れを創り、過度な東京一極集中の弊害を是正することが目指されます。3)付加価値創出型の新しい地方経済の創造農林水産業や観光産業を高付加価値化し、自然や文化・芸術など地域資源を最大限活用した高付加価値型の産業・事業を創出し、内外から地方への投融資を促進し、地方起点で成長し、ヒト・モノ・金・情報の流れをつくるエコシステムを形成することが重要です。4)デジタル・新技術の徹底活用ブロックチェーン、DX・GXの面的展開などデジタル・新技術を活用した付加価値創出と地方経済の活性化、オンライン診療、オンデマンド交通、ドローン配送や「情報格差ゼロ」の地方創出など、地方におけるデジタルライフラインやサイバーセキュリティを含むデジタル基盤の構築を支援し、生活環境の改善につなげ、デジタル技術の活用や地方の課題を起点とする規制・制度改革を大胆に進めることが求められます。5)「産官学金労言」の連携など、国民的な機運の向上地域で知恵を出し合い、地域自らが考え、行動を起こすための合意形成に繋がる取組を進め、地方と都市の間で、また地域の内外で人材をシェアする流れをつくることが重要となります。「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)」は、これらの目標達成を力強く後押しするための重要な政策であり、自治体職員にとっては、地域を活性化するための戦略的な手段となります。参考:地方創生2.0に向けた取組について|内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部事務局 新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)制度の概要先述の通り、これまでの「デジタル田園都市国家構想交付金(以下、デジ田交付金)」は、「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)(以下、 新地創交付金)」という名称に改められました。この制度変更は、デジタル実装に限らず、より幅広い地域課題に対応できるよう設計された点が大きな特徴です。引用:地方創生2.0に向けた取組について|総務省新地創交付金制度は、以下の4つの類型で構成されています。1)第2世代交付金: 従来の「地方創生推進タイプ」に相当する類型であり、各自治体が直面する地域課題に対して自由度高く活用できます。UIJターン※の促進、地域資源の活用、関係人口の創出など、デジタルに限らず幅広い取り組みが対象です。2)デジタル実装型: 旧制度で中心となっていた「TYPE1〜TYPE3」「TYPES」などの類型を引き継ぎつつ再構成されたものです。住民サービスの改善や行政業務の効率化を目的に、デジタル技術を活用した事業が支援対象となります。(詳細は後述)3)地域防災緊急整備型防災分野に特化した類型で、安心・安全で心豊かに暮らせる持続可能な地域を目指し、避難所の生活環境(トイレ・キッチン・ベッド・風呂など)の抜本的な改善をはじめ、災害に強い魅力ある地域づくりに取り組む自治体を交付金で緊急支援することを目的としています。4)地域産業構造転換インフラ整備推進型大規模な産業誘致や拠点整備に関わるインフラ支援を行う類型です。半導体やグリーントランスフォーメーション(GX)など、国家的に重要な分野の地域展開を後押しすることを想定しています。このように、旧デジ田交付金制度が主にデジタル実装に特化していたのに対し、新制度では「地域経済・生活環境の創生」という視点で、より包括的な政策支援が可能になっています。※UIJターン(以下それぞれの総称):・Uターン:地方から都市部へ移住したものが再び地方の生まれ故郷に戻ること。・Iターン:出身地とは別の地方に移住すること。・Jターン:地方から都市部へ移住し就職した後、故郷のほど近いところに戻ること。参考:求人票に記載された「U・I・Jターン大歓迎」の文字は|厚生労働省 新しい地方経済・生活環境創生交付金:デジタル実装型の概要デジタル実装型は、旧デジ田交付金制度においても中心的な役割を担ってきた交付金の枠組みであり、自治体のデジタル化推進に大きく寄与してきました。今回の制度変更では、従来の枠組みを引き継ぎながら、より柔軟かつ先進的な取り組みが可能となるよう再編されています。引用:別添1 新しい地方経済・生活環境創生交付金 デジタル実装型 TYPE1/V/S 制度概要旧制度におけるデジタル実装タイプ上記画像で解説されている通り、旧制度では以下のような類型が存在していました。TYPES:業務プロセスや組織改革を含む高度な行財政改革を行う取組TYPE3:TYPE2をさらに発展させ、社会全体の変革につながる取組TYPE2:データ連携基盤など、地域全体でのデータ利活用を進める取組TYPE1:他自治体の優良事例を自地域に導入する取組TYPE0:小規模な導入や試行的な取組を支援する初動支援型地方創生テレワーク型:テレワークを活用した移住促進や関係人口の創出を支援新制度におけるデジタル実装タイプ新制度におけるデジタル実装型では、旧制度を以下のように再構成・発展させています。TYPES:従来のTYPESと同様、自治体全体の業務プロセス改革や人材配置改革など、行政組織そのものの変革を後押しする類型です。国による横展開も視野に入れた高度な取組が期待されます。TYPEV:従来のTYPE2と3に置き換わる形で新たに設けられた類型で、ブロックチェーンやWeb3といった先端技術を活用した社会実装が対象です。公共財の高度化や透明性の確保などを通じた新しい行政サービスを目指す内容が求められます。TYPE1:引き続き、優良事例の導入を支援する枠組み。TYPE0:引き続き、小規模な導入や試行的な取組を支援する初動支援型※新制度において、地方創生テレワーク型は廃止新しいデジタル実装型の特徴としては、従来の類型を踏襲しながら、先端技術を活用した新たな類型(TYPEV)の創設や、国の重点政策テーマ(交通DX、感染症対応、水道のDXなど)に沿った支援メニューが設けられている点が挙げられます。これにより、国の方向性と自治体の取組がより連動しやすくなる設計になっています。デジタル実装型の申請スケジュール(2025年度補正):TYPEごとの違いに注意引用:別添1 新しい地方経済・生活環境創生交付金 デジタル実装型 TYPE1/V/S 制度概要2024年12月に内閣府から公開された資料によると、新地創交付金のデジタル実装型は、TYPE1・TYPEV・TYPESといった類型ごとに、申請スケジュールが異なる形式で進められています。たとえば、TYPE1では事前相談の締切が2025年1月22日(水)正午、実施計画の提出が2月12日(水)18時までと設定されており、TYPEVはこれより前倒し、TYPESは2月下旬からスタートを予定する形式が採られました。交付決定時期も類型によって異なり、TYPE1とTYPEVは4月上旬、TYPESは4月下旬が予定されています。こうしたスケジュールの分散は、今後の申請準備においても重要なポイントです。事前相談の活用や、提出締切への対応を確実に行うためには、早い段階での準備とスケジュール確認が不可欠です。なお、各TYPEのスケジュールは年度ごとに見直される可能性があるため、次回以降の申請を検討している自治体におかれましても、最新の公式情報をご確認のうえ、余裕を持った申請準備を進めることをおすすめします。参考:別添1 新しい地方経済・生活環境創生交付金 デジタル実装型 TYPE1/V/S 制度概要交付金申請の成功に向けて:自治体職員が知っておくべきTips新地創交付金は、旧制度であるデジ田交付金の申請書における記載事項を踏まえて設計されています。ここでは、2024年12月20日に弊社が元デジタル庁の担当者を招いて開催したセミナー「元デジタル庁の担当者が『新デジ田』交付金を徹底解説!」の内容も踏まえ、旧制度であるデジ田交付金の申請において重視されたポイントを参考に、新地創交付金でも重要になると予想されるTipsを解説します。1. 事前相談の重要性と効果的な活用交付金申請における事前相談は、計画の精度を高め、採択の可能性を向上させるための重要なステップです。事前相談は以下のような活用が推奨されます。計画書の草案を早いタイミングで事務局に提出し、事務局からのフィードバックを得ることで、内容のブラッシュアップが可能になります。複数回にわたって事前相談を行い、事務局と十分に認識をすり合わせていくことで、事務局が求める計画書が作成できるため効果的です。計画書の粒度が粗いタイミングで初回の事前相談をすることも問題ありませんが、可能な限りの内容を記載しておくと事務局とのやりとりがスムーズに進むとされています。2. 採択される計画書の作成ポイント計画書の完成度は、採択可否に直結します。特に以下の点が重視されます。申請フォーマット内に元から記載されている赤字部分(事務局が重視する項目)に沿って、具体的かつ簡潔に記載すること。事業主体が自治体であることを明確にし、地域の課題や特性とどう結びつくかを丁寧に説明すること。複数サービスで申請する場合は、サービスごとにKPIを設定すること。横展開が可能なサービスであっても、「この地域にとってなぜ必要なのか」という文脈を明示し、地域課題との関係性を示すこと。3. 対象経費と対象外経費の正確な理解交付金の申請では、各類型ごとに対象となる経費と対象外となる経費があります。申請時に間違いが特に多いケースが「対象外の経費を経費として計上してしまうこと」とのことですので、事前に対象経費と対象外経費を理解しておくことが重要になります。参考までに下記に旧デジ田交付金のデジタル実装型における情報を掲載してますが、申請時は各類型の対象経費・対象外経費に関する最新情報を確認してください。対象経費の例(※旧デジ田交付金の情報をベースにした参考):引用:デジタル田園都市国家構想交付金 デジタル実装タイプ TYPE1/2/3等 制度概要 増補版・事業計画の立案・修正に要する費用・サービス実装に伴うマーケティング調査、人件費、外部専門人材の招聘・確保費・プロジェクトマネジメント費用・KPI取得やWell-Being指標の調査・評価にかかる費用・設備・備品の整備(必要最小限)・広報・プロモーション活動(体験イベント、チラシ、映像制作等)・単年度での支出であれば、PCレンタル料やクラウド利用料等を3年分一括計上することも可対象外となる経費の例:引用:デジタル田園都市国家構想交付金 デジタル実装タイプ TYPE1/2/3等 制度概要 増補版・実装を伴わない実証・調査事業・継続的なランニングコスト(例:クラウド利用料の4年目以降)・Wi-Fi等のインフラ整備、人材育成、コンテンツ制作のみを目的とする事業・職員の旅費や人件費、特定の給付経費・備品購入や施設整備が主目的となる事業・国の他制度(補助金)と重複する事業、用地取得費 などこれらの判断は制度ごとに微妙に異なる可能性もあり、最新の情報が更新されている場合もありますので、必ず最新の要綱や事務局への確認を通じて精査することを推奨します。国が運営する、デジタル実装を推進するための支援ツールここからは、申請プロセスや導入の負担を軽減するためのTipsとして、デジタル庁が提供する「デジタル地方創生サービスカタログ」「モデル仕様書」「デジタルマーケットプレイス(DMP)」についても簡単に紹介します。デジタル地方創生サービスカタログ:最適なサービスの選定交付金の活用に適したデジタルサービスを効率的に選定するため、デジタル庁が提供する「デジタル地方創生サービスカタログ」を活用することが有効です。このカタログには、過去にデジ田交付金の採択実績があるサービスや、モデル仕様書に準拠したサービスが掲載されており、自治体の課題に適したソリューションをスムーズに見つけることができます。活用メリット交付金の要件に適合するサービスを効率的に選定可能他の自治体での導入実績を参考可能類似サービスを比較し、最適なものを選択可能参考:デジタル地方創生サービスカタログ(2024年冬版)|デジタル庁モデル仕様書:調達業務の負担軽減選定したデジタルサービスを円滑に調達するためには、「モデル仕様書」 を活用することで、仕様の統一や要件整理をスムーズに行えます。 モデル仕様書は、自治体がデジタルサービスを導入する際の標準的な仕様をまとめた文書 であり、ゼロから仕様書を作成する手間を省きます。活用メリット調達業務の簡素化:標準仕様を利用することで、要件定義の負担を軽減相互運用性の確保:異なるシステム間での連携をスムーズにコスト削減:標準化による不要なカスタマイズを減らし、導入費用を抑制デジタルマーケットプレイス(DMP):迅速な契約・調達交付金を活用して選定したサービスを迅速に調達するために、デジタルマーケットプレイス(DMP) を利用することで、調達プロセスを効率化できます。 DMPは、自治体向けにクラウドサービス(SaaS)の比較・契約をオンラインで行えるプラットフォーム であり、煩雑な入札手続きを簡素化し、よりスムーズな調達を実現します。活用メリット調達期間を短縮:従来の入札手続きを簡素化し、契約を迅速化サービスの比較が容易:DMP上で登録されているサービスを一覧で確認し、最適なものを選定可能幅広い選択肢を確保:大手企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業のサービスも利用可能参考:DMP デジタルマーケットプレイス|デジタル庁ポケットサインでは交付金の申請サポートも行っています「ポケットサイン」は、防災や地域ポイント、ボランティアなど、複数の行政サービスを一つに集約できる、自治体向けのスーパーアプリです。住民との情報共有・コミュニケーションを一元化することで、自治体運営の効率化と住民満足度の向上を同時に実現します。また、ミニアプリ間の連携やデータ活用を通じて、地域のニーズに応じた柔軟なサービスの拡張が可能です。これまでに、熊本市・宮城県・境町・長井市・能美市をはじめとする自治体において、「デジタル田園都市国家構想交付金(旧デジ田)」を活用した導入実績がございます。下図に示すように、「TYPE-X」「TYPE-1」「TYPE-2」「TYPE-3」といった全類型において採択実績を有しています。弊社では、交付金の申請書作成支援からサービスの導入、運用開始後の住民向け展開まで、一気通貫でサポートする体制を整えております。地域課題の解決や住民サービスの向上を目的として、交付金の活用をご検討中の自治体の皆さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。▼お問い合わせはこちら 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