日本各地で頻発する自然災害を受け、住民の命を守るための情報伝達のあり方が改めて問われています。特に近年の大規模災害では、従来の防災行政無線などを補完し、一人ひとりのスマートフォンに直接情報を届ける「防災アプリ」の重要性が増しています。しかし、多くの自治体担当者様から「どのアプリを選べばいいのか」「本当に必要な機能は何か」といった声が聞かれるのも事実です。この記事では、そうした疑問にお答えするため、防災アプリの基本的な役割から、国の動向を踏まえた主な機能、トレンドまでを分かりやすく解説します。防災DXとその取り組み事例については以下記事でも紹介していますので、ぜひご覧ください。▼防災DXに関しての詳細はこちら防災DXとは?必要性と課題、自治体の取り組み事例目次防災アプリとは?「防災アプリ」とは、災害時や平時の防災活動において、住民や自治体職員が情報の受発信や行動支援に利用するアプリケーションの総称です。避難指示や警報の配信、避難所での受付・安否確認、ハザードマップの閲覧、防災学習など、災害の全フェーズで活用されます。ただし、アプリといってもその対象はさまざまで、職員が庁内で利用する被災者支援システムや避難所管理システムも「防災アプリ」の一種といえます。一方で、住民向けアプリと庁内システムでは役割や導入プロセスが大きく異なるのが現実です。住民向けアプリ:避難指示の受信、避難所での受付、安否情報の送信など「住民の行動を支援するツール」庁内システム:避難所人数の集計、物資管理、被災者支援業務など「行政内部の処理を支えるツール」本記事では、読者である自治体職員の方にとっての分かりやすさを優先し、主に「住民向けスマートフォンアプリ」を中心に解説を進めます。ただし、アプリを有効に機能させるには庁内システムとの連携が不可欠なため、必要に応じてその全体像にも触れていきます。なぜ今、防災アプリが必要なのかこれまで災害情報の伝達手段は、防災行政無線や広報車、自治体ホームページなどが中心でした。しかし、これらの方法には限界があります。屋外でないと放送が聞こえない総務省消防庁の資料では、多くの自治体が「台風や豪雨時に防災行政無線の音声が聞こえないという住民からの苦情が多かった」ことを課題として挙げています。特に近年の高断熱住宅やマンションでは、屋外放送がほとんど届かないケースが報告されています。 参照: 災害情報伝達手段の奏功事例集 - 総務省消防庁聞き逃しや誤認が発生する過去の災害時には、サイレンや拡声器の内容が不明瞭で、避難の呼びかけが住民に正しく伝わらなかった事例が確認されています。東日本大震災の調査報告書では、住民から「何と言っているか分からなかった」という証言も多く記録されており、避難行動の遅れにつながる危険性が指摘されています。参照:東北地方太平洋沖地震を教訓とした 地震・津波対策に関する専門調査会 報告高齢者や外国人住民には情報が届きにくい内閣府の防災白書でも、高齢者は心身の機能の低下から「情報の入手が困難になる傾向がある」と指摘されています。また、日本語の能力が十分でない外国人は「避難に関する情報等を迅速かつ的確に把握することが困難な場合がある」とされ、情報格差の解消が課題です。参照:令和6年版 防災白書 - 内閣府こうした従来手段の限界を補完するのが「防災アプリ」です。スマートフォンを活用した防災アプリは、次のようなメリットを持ちます。即時性:プッシュ通知により、避難指示や警報を住民個人に直接届けられる。双方向性:住民が避難所の受付や安否情報を入力でき、庁内システムと連携して支援に活かせる。平時からの利用: 防災情報だけでなく、日々の暮らしに役立つ行政サービスや地域情報なども提供することで日常的な利用を促し、防災意識の向上にも繋げられる。さらに国の動向も、防災アプリの導入を後押ししています。2024年には内閣府内に「防災庁設置準備室」が発足し、災害対応の司令塔機能を強化する方針が進められています。あわせてデジタル庁による「交付金制度」や「モデル仕様書」の公開により、標準化された防災アプリを導入しやすい環境も整いつつあります。参照:令和6年11月1日 防災庁設置準備室 発足式 | 総理の一日 | 首相官邸ホームページ防災DXの全体像:災害フェーズ別の機能マップでは、防災アプリやそれを取り巻くシステムには、どのような機能の選択肢があるのでしょうか。その全体像を理解する上で最適なのが、デジタル庁の「防災DXサービスマップ」です。このマップは、住民向けアプリから庁内システムまで、災害のフェーズごとにどのような機能が役立つかを網羅的に整理しています。まずはこのマップで全体を俯瞰することで、住民向けアプリがシステム全体の中でどのような役割を担うのかを明確に把握できます。引用:防災DXサービスマップより, デジタル庁このマップで紹介されている機能カテゴリの概要は、以下の通りです。平時(避難意識の醸成) VRによる災害シミュレーションやハザードマップといった「防災学習」、地域ごとの「災害リスク評価」など、事前の備えを促す機能があります。切迫時(避難行動)避難指示のプッシュ通知や多言語対応などの「避難促進」に加え、リアルタイムの「被害予測・計測」といった、差し迫った危険から命を守るための機能が中心です。応急時(避難生活) 避難所の混雑状況の可視化や安否確認などの「避難生活支援」、SNSなどを活用した「被害情報の収集・共有」といった、災害発生直後の混乱を乗り切るための機能が整理されています。復旧・復興時(生活の再建) 罹災証明書のオンライン申請や、ドローンを活用した家屋調査の支援など、被災者の「生活再建支援」に関する機能が含まれます。このように「防災DXサービスマップ」を参照することで、どのような機能の選択肢があるのか、その全体像を把握しやすくなります。防災アプリを取り巻く4つの最新動向防災アプリを取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。国の制度整備、技術の進化、そして住民ニーズの多様化が同時に進み、自治体にとっての選択肢は格段に広がりました。これからの防災アプリを考える上で、特に重要となる4つのトレンドを解説します。Trend 1:国の後押しによる「標準化」と導入支援国が主導する形で、自治体が防災アプリを導入・運用しやすい環境整備が進んでいます。機能の標準化:デジタル庁が公開する「サービスカタログ」や「モデル仕様書」により、避難所受付や安否確認といった防災アプリに求められる基本的な機能が明確化されました。これにより、自治体はゼロから仕様を検討する負担が減り、一定の品質が担保されたサービスを選びやすくなっています。財政的支援:「新しい地方経済・生活環境創生交付金(旧デジタル田園都市国家構想交付金)」などを活用することで、導入時の財政的なハードルも下がっています。司令塔機能の強化:2024年には内閣府に防災庁設置準備室が発足し、国全体の防災体制を強化する動きが加速しています。将来的には、各自治体のアプリが国の防災システムと連携することも視野に入ってくるでしょう。▼新地創交付金については以下記事で解説しています。「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)」制度概要や申請TipsTrend 2:生成AI・マイナンバーカード活用による防災機能の「高度化」テクノロジーの進化により、防災アプリは単なる情報伝達ツールから、災害時に確実に機能する社会インフラへと進化を遂げようとしています。迅速・確実な本人確認:マイナンバーカードの電子証明書機能を使えば、避難所での受付業務が迅速かつ正確になります。データとAIによる状況把握:人流データや生成AIを活用し、避難所の混雑状況を予測したり、孤立の危険性がある地域を推定したりする実証実験が進んでいます。通信途絶への備え:災害による停電や通信障害を想定し、オフラインでも情報確認や安否連絡ができる技術開発も進んでいます。SpaceX社が提供する通信サービス「Starlink(スターリンク)」なども災害時の通信手段として導入が進んでいます。参考:Starlinkで変わる災害対策 迅速な復旧で被災地をつなげる | ドコモのネットワークの取組み | 通信・エリアTrend 3:開発手法の選択肢:「パッケージ導入」と「独自開発」防災アプリを導入する際、開発手法の選択肢は大きく「パッケージ導入」と「独自開発」に分けられます。かつては自治体ごとにゼロから開発する「独自開発」が主流で、費用や期間の面で導入のハードルが高い側面がありました。しかし近年は、安価で迅速に導入できるパッケージやSaaSのサービスが充実してきたことで、自治体にとっての選択肢が広がり、導入のハードルは大きく下がっています。1. パッケージ/SaaS導入モデル「パッケージ/SaaS導入」は、既存のサービスやシステムを活用する手法です。導入までの期間とコストを抑えられる点が大きな特徴で、すでに他の自治体で実績のあるサービスを導入することもできます。コストと期間の抑制: ゼロから開発するより初期費用を抑えられ、導入までの期間も短縮できます。豊富な標準機能: 国の仕様書に準拠した機能や、他自治体での導入実績に基づいた機能が予め搭載されています。継続的なアップデート: 法改正や最新技術への対応も、サービス提供事業者が行います。宮城県では、県内市町村が共同で単一のサービス(ポケットサイン防災)を導入する「広域連携」という形で、この手法を活用しています。参照:自然災害避難支援アプリ「みやぎ防災」について - 宮城県公式ウェブサイト2. 独自開発モデル「独自開発」は、自治体が主体となって防災アプリをゼロから企画・開発する手法です。地域の特性や独自の課題に完全に対応した、きめ細やかな機能を実装できるのが大きな特徴です。自由度の高さ: 地域の特性(地理、災害リスクなど)に完璧に合わせた機能をゼロから設計できます。独自の機能実装: 防災以外の地域情報や、他の行政サービスとの連携など、自治体独自のコンテンツを自由に盛り込めます。既存システムとの連携: 自治体がすでに運用している他のシステムと、仕様に合わせて柔軟に連携させることが可能です。東京都の「東京都防災アプリ」や渋谷区の「渋谷区防災アプリ」は、それぞれの地域特性に合わせて独自の機能を盛り込むために、この手法を活用した代表例です。このように自由度が高い一方で、開発費用や期間、完成後の維持管理体制の確保も必要になるため、予算に余裕がある自治体で採用される傾向にあります。参照:東京都防災アプリ渋谷区防災アプリTrend 4:日常利用を促す「フェーズフリー化」へのシフト「いざという時のためにインストールはしたが、一度も開いたことがない」という課題を解決するため、防災アプリのあり方が見直されています。そのキーワードが「フェーズフリー」です。これは、日常時と災害時というフェーズ(段階)を取り払い、普段から使えるものが、もしもの時にも役立つという考え方です。例えば自治体からのお知らせ通知や地域ポイントなど、普段から利用が想定される機能と防災機能を一体化させることで、住民の日常的な利用を促進できます。これにより、アプリの操作に慣れ親しんでもらうと同時に、災害時にはプッシュ通知などで確実に防災情報を届けられるようになります。ポケットサインが提供する自治体向け防災アプリ事例ここからは、これまでの課題やトレンドを踏まえ、弊社が提供する「ポケットサイン防災」がどのように自治体の防災DXに貢献できるのか、具体的な導入事例と製品の強みをご紹介します。宮城県で導入|市町村の垣根を越えた「広域連携モデル」広域災害に備え、市町村の垣根を越えた情報連携を実現するのが宮城県の事例です。災害時には住民が居住地以外の市町村へ避難することも想定されるため、県内35の全市町村で「ポケットサイン防災」を導入し、県内のどこへ避難しても一人ひとりの安否や所在といった情報を正確に把握できる体制を構築しています。さらに、日常的に使える地域ポイント「みやポ」なども同じアプリで提供することで平時から住民の利用を促し、いざという時に誰もがスムーズに使える「フェーズフリー」な仕組みへと繋げています。参照:自然災害避難支援アプリ「みやぎ防災」について - 宮城県公式ウェブサイト宮城県が県内全域で「ポケットサイン防災」導入渋谷区で導入|既存アプリを活かす「機能追加モデル」一方、渋谷区では、多くの区民がすでに利用している「渋谷区防災アプリ」はそのままに、「ポケットサイン防災」の機能をミニアプリとして追加する形で導入されています。これにより、区民は使い慣れたアプリからマイナンバーカードを使って避難所の受付を瞬時に済ませることが可能になります。自治体は避難者の状況をリアルタイムで把握でき、アレルギー情報などに基づいた的確な支援に繋げられます。このように、県全域で新たなデジタル基盤を構築する「広域連携モデル」から、既存のアプリと組み合わせる「機能追加モデル」まで。ポケットサインは、自治体の実情に合わせた柔軟な形で防災DXに貢献します。その強みを支える、ポケットサイン防災の具体的な特徴を3つご紹介します。ポケットサイン防災が持つ3つの強みマイナンバーカード活用による「迅速・確実な」避難所運営マイナンバーカードの公的個人認証を活用することで、避難所運営を抜本的に効率化します。実証実験では、紙の受付に比べて約14倍のスピードで避難者登録が完了しました。これにより、職員の負担を軽減し、住民一人ひとりの状況に応じたきめ細やかな支援に注力できます。宮城県全域での導入実績と「国のお墨付き」「ポケットサイン防災」は、宮城県内の35市町村全域で導入されており、広域連携モデルの実績があります。また、国の公式なサービスリストである「防災DXサービスマップ」や「デジタル地方創生サービスカタログ」にも掲載されており、国からも信頼性と実用性が認められたサービスです。「フェーズフリー」で、いざという時に確実に使われる仕組み防災アプリが直面しがちな「インストールはされたが、使われない」という課題に対し、ポケットサインはフェーズフリーの考え方で解決します。宮城県では、日常的に使える地域ポイント「みやポ」と同じアプリ内で防災機能を提供。「お知らせ配信」などの日常利用機能も合わせて提供することで、住民は日頃から操作に慣れ、災害時にもスムーズに防災機能を活用できます。▼「ポケットサイン防災」の詳細はこちらhttps://pocketsign.co.jp/service/miniapp/dis▼「ポケットサイン防災」に関するお問い合わせ・ご相談はこちら https://pocketsign.co.jp/contact