2026-03-31
「届いているか分からない」からの脱却と、「必要な人に届く」広報へ。
宮城県が挑む、アプリを通じた広報DXの“運用設計”のリアル
行政広報は、ホームページ、SNS、紙の広報誌など複数の手段で情報を届けられる一方で、情報量が増えるほど「本当に届いているのか」「必要な人に届いているのか」を捉えにくくなるという課題を抱えています。発信はできても、受け手の反応やニーズとのズレを十分に検証できず、「出して終わり」になりやすい。この“見えにくさ”は、多くの自治体に共通する悩みと言えるでしょう。
こうした状況を踏まえ、宮城県では、みやぎ県民公式アプリ「ポケットサイン」上で、ミニアプリ「ポケットサインおしらせ」の運用を進めています。特徴的なのは、広報課だけが情報発信するのではなく、県の各所属が管理画面から記事を作成し、それぞれの担当分野に応じた情報発信を行う体制を整えている点です。広報課はその土台として、投稿ルールに加え「県民に伝わるポイント」といったコンテンツ制作のノウハウまで整理したマニュアルを作成・共有し、全庁で一定の品質を保ちながら運用できるよう支えています。さらに、庁内での活用を促すために「月1回の投稿」を呼びかけるなど、運用を根づかせるための働きかけも続けています。
一方で、発信の体制が整うほど、次に問われるのは「どう届けるか」の設計です。強力な手段であるプッシュ通知は、使いどころを誤ると敬遠されかねないため、重要情報に絞る判断が必要になります。また、記事ごとの閲覧状況が可視化されることで、これまで見えにくかった反応を手がかりに「次はどう出すか」を考えやすくなり、発信の改善にもつなげられます。
本記事では、全庁で回す投稿体制の整え方、プッシュ通知の使い分け、ターゲット設定の活用に向けた課題と展望など、「ポケットサインおしらせ」を運用していくうえでのリアルについて、宮城県 広報課 主任主査の水間様に伺いました。

(写真:広報課 主任主査 水間様)
(取材・構成:ポケットサイン株式会社)
「出して終わり」になりやすい広報の壁
――まずは自己紹介をお願いします。
水間様 広報課の水間(みずま)と申します。広報課は3年目で、広報紙「みやぎ県政だより」の制作と、「ポケットサインおしらせ」の運用などを担当しています。
みやぎ県政だよりは、企画から取材・記事づくりまでを職員が行っています。毎号、産業、子育て、農業、水産業、震災伝承など、さまざまな分野で活躍する法人・団体等へのインタビュー記事を掲載しており、現場に伺って取材や表紙の撮影も行っています。
この「ポケットサインおしらせ」については、令和5年度からスタートしたプロジェクトですが、立ち上げ時は別の職員が担当していました。私はそのバトンを受け継ぐ形で、アプリが本格稼働した令和7年度(2025年度)の4月から担当しています。

――導入前に広報課として感じていた課題感を教えてください。
水間様 ホームページやSNS、「みやぎ県政だより」など、媒体はいろいろある一方で、情報量が多く一方的になりがちで、「ちゃんと皆さんに届いているかどうか」という課題感がありました。
こちらから情報発信している一方で、ニーズに応じた発信ができているのかな、そもそもニーズを把握できているのかな、という懸念もあって。届けたい情報と求められている情報に乖離があったのではないか、という課題意識を持っていました。
――なるほど。「出すこと」はできても、「届いているか」は見えにくい、と。
水間様 そうですね。行政にとって「届いたかどうか」が分からない点は大きな課題です。効果測定も難しくて、SNSはある程度分析できますが、チラシなどの紙媒体は、「これを見たからイベントに来た」という測定がかなり難しい。ちゃんと届いているか分からない状態で発信しているところがありました。
――その課題に対して、アプリで「変えられる」と期待していたのは具体的にどんな点でしたか。
水間様 必要な人に必要な情報が届けられる、というところですね。年齢や性別、地域といった属性に合わせてメッセージを配信できる仕組みは、改善の第一歩になるのかなと思っています。特定の層に情報を届ける仕組みが十分ではなかったこともあり、そこを変えていける可能性があると感じていました。
――「みやぎ県政だより」についても、スマホで見られることに期待があったと伺いました。
水間様 はい。若い世代を中心に、紙媒体を見る習慣が薄れていると感じています。そうした中で、「みやぎ県政だより」などをスマホで見られる環境には、とても期待していました。
実は、広報誌をスマートフォンで読める無料のサービスもすでに導入しており、毎号掲載しています。多言語対応や読み上げ機能があるため、視覚障害のある方への読み上げや多言語での情報提供の面では、とても重要な役割を果たしていると感じています。ただ、県民の皆さんに“日常的に開いてもらう”という点では、まだ利用頻度を伸ばしていきたいという課題もあります。「おしらせ」ミニアプリは、そうした課題意識も踏まえて、日常的に情報に触れてもらうための新しい接点になってほしいと思っています。
――「届いているか分からない」状態を変えていく。そのための新しいチャネルとして、アプリに期待していたんですね。
水間様 はい。必要な方に確実に届けたい、という思いがありました。

「ポケットサインおしらせ」のアプリ画面イメージ
全庁運用を支える投稿体制と、プッシュ通知ルールの整備
――実際の運用フローを教えてください。どのようなルールや体制で投稿しているのでしょうか。
水間様 通常のお知らせ配信は、各所属が、マニュアルに沿って管理画面から記事を作成し、配信まで行っています。掲載しているのはイベント情報や募集情報など、「県でこういうことをやりますよ」という案内をはじめ、幅広い情報です。
運用を進めるにあたっては、広報課でマニュアルを作成し、「県民に伝わるポイント」なども含めてルールを共有しています。各所属はそのマニュアルを見ながら記事を作成する形で、一定の質を保ちながら、情報発信ができる体制にしています。
今後、投稿をさらに活性化していくために、広報課からは「月1回投稿してほしい」と呼びかけています。ただ、所属によっては発信できる情報が少ないところもあるため、一律に増やすのは難しい面もあります。10月に通知を出して促進しているところですが、まだ大きく投稿数が増えたという実感まではなく、今後も庁内での浸透を図っていきたいと考えています。
――プッシュ通知は、どういう方針で使い分けていますか。
水間様 プッシュ通知は、配信頻度が多いとユーザーに敬遠されてしまう懸念があるので、本当に重要な情報に限って慎重に運用しています。
情報配信を希望する所属から原稿をもらい、内容を確認・修正した上で、広報課が管理画面から配信しています。
――「重要な情報」の判断基準は、どんなイメージでしょう。
水間様 最近では、インフルエンザ警報やクマによる人身被害防止の啓発などですね。基本は、人命に関わる内容や県民にとって重要なお知らせに限って発信しています。

プッシュ通知のイメージ
「見える」ことで、改善の打ち手が考えやすくなる
――実際に運用してみて、いかがでしたか。閲覧状況が“見える”ことで、何か気づきはありましたか。
水間様 記事を投稿すると閲覧数が出るので、反応が見えるのは大きいです。投稿内容によって反応の違いも分かります。傾向としてはイベント系が強く、他の情報と比べても見られやすいですね。皆さんが興味のある情報なんだなと思います。こうして反応が見えると、感覚だけでなく「次はこうしよう」と出し方を考えやすいと思います。
今後は、プッシュ通知に頼らず、アプリを開いてもらえるような工夫も検討したいです。
――分析機能として、今後ほしいものはありますか。
水間様 年齢層の分析ができるといいなと思います。「どの層が見ているか」が分かれば、「高齢者がよく見ているからこのデザインにしよう」といった戦略が立てられるのですが、今は管理画面上でそこまで把握できないため、ぜひお願いしたいです。

ターゲット配信は使いどころが見えると、運用に活きる
――マイナンバーカードによる本人確認情報を用いて配信先を絞る「ターゲット設定」は、どんな場面で使えると考えていましたか。
水間様 県民の年齢や性別、地域などの属性情報を活用して、必要な人に必要な情報を届けられる点に期待していました。
ちょうどこの頃、若い女性向けのHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の接種案内があって、年齢や性別を絞って発信できるのは有効だなと思っていました。
ただ現時点では、そうした発信があまり活用されていない部分もあります。だからこそ今後は、こうした「対象が明確な情報」での成功事例を一つずつ作って、庁内に広めていきたいですね。
――実際の運用では、ターゲット設定はどの程度活用されていますか。
水間様 ターゲット情報を設定しているケースは、見ている限りまだ少なくて。「15歳から99歳まで」といった設定をしている方もいるのですが、それほぼ全員ですよね(笑)。
せっかくのセグメント機能が、全配信と同じような形で使われてしまっているのは非常にもったいないと感じています。もう少し属性情報をうまく活用して、本当に届けたい人に届くようにしていきたいです。
――今後、運用のためにあったらいいなと思う機能はありますか。
水間様 ターゲット配信の活用具合が分かる機能があると、運用改善につながると思います。あとはプッシュ通知ではなく「バッジ表示」ですね。通知音は鳴らさなくても、アプリアイコンにバッジがついて「あ、来ているな」と視覚で分かるような仕組みです。
――最後に、広報DXとして今後目指したい方向性を教えてください。
水間様 「広く一斉に届ける」という方法から、「必要な人に必要な情報を確実に届ける」広報へシフトしていきたいと考えています。ポケットサインのお知らせは、その第一歩として重要な役割を担っていきたいです。
宮城県が「ポケットサインおしらせ」に期待したのは、単に発信チャネルを増やすことではなく、「届いているか分からない」状態から一歩進み、必要な情報を必要な人に届ける広報へ近づくことでした。
全庁で投稿できる体制を整え、プッシュ通知は“ここぞ”に絞る。さらに閲覧状況の見える化を手がかりに、改善の打ち手を積み上げています。
まとめ:おしらせアプリを活かす運用ポイント
宮城県では、「ポケットサインおしらせ」の導入により、投稿ごとの閲覧状況などを把握できるようになり、従来の「情報は出しているが、届いているか分からない」という“見えにくさ”を解消しつつあります。また、投稿内容による反応の違いを手がかりに、次の発信を具体的に考えることができるようになりました。
一方で、こうした改善には、全庁で継続的に投稿する体制が不可欠です。宮城県では、広報課が「県民に伝わるポイント」を盛り込んだ運用マニュアルを整備し、各所属が管理画面から自ら記事を作成・配信できるルールを共有しています。広報課のみの発信にとどまらず、各所属が自走することで、組織全体の発信力を底上げし、反応を踏まえた改善サイクルを回しやすい土台を整えています。
閲覧状況は“当たり外れ”で終わらせず、データ分析で次の投稿設計に反映する
投稿後に反応が見えることで、「どんな情報が見られやすいか」の傾向がつかめます。タイトルや切り口、情報の出し順など、改善できるポイントを小さく回していくことが、継続的な運用につながります。ターゲット配信は「ユースケースが明確なテーマ」から使いこなす
年齢・性別・地域などで届け先を設定できる強みは、対象がはっきりしている情報ほど活かしやすいものです。まずはユースケースが明確な発信から始め、庁内で使い方を共有していくのが現実的です。プッシュ通知は「重要情報のみ」に絞り、信頼を積み上げる
通知は強い手段である一方、頻度が上がると敬遠されるリスクもあります。まずは「どの情報ならプッシュにするか」を明確にし、判断のブレを減らすことが重要です。「広く届ける」から「必要な人に届く」へ、届け方を意識して整える
県民にとって“自分に関係のある情報”が増えるほど、アプリの価値は伝わりやすくなります。配信対象の設計を見直しながら、情報が埋もれにくい広報へ近づけていくことがポイントです。
ポケットサインおしらせについて

自治体からの広報情報や各種メッセージを、地域住民にアプリで配信できるミニアプリです。マイナンバーカードの情報をもとにおすすめ記事を表示できるほか、プッシュ通知にも対応しています。広報誌の電子化機能により、バックナンバーの閲覧も可能です。さらに、個人ごとにカスタマイズしたメッセージを送付できる個人宛通知機能(オプション)にも対応しており、住民への正確かつスピーディーな情報伝達を支援します。
【こんな課題を解決】
住民一人ひとりに最適な情報を届けたい
所属ごとに異なる情報通達方法を一元化したい
広報誌や各種おしらせ書類の印刷・郵送費を削減したい
おしらせの既読状況を確認したい
【機能例】
地域、年齢、性別を絞り込んだユーザーに対してメッセージ送信ができます
プッシュ通知によって、住民に情報が届いた事を知らせることができます
所属に紐づいた管理アカウントにより、担当所属ごとに投稿情報を表示できます
広報誌をバックナンバーを含めて掲載できます
<オプション>
個人宛通知機能
マイナンバーカードの4情報をもとに、特定の住民に通知が可能
本文の内容も個人ごとにカスタマイズが可能
既読確認機能により、住民が通知を開いたかどうかの確認が可能
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