Case study

導入事例

2026-07-08

行政サービスの接点をどう統合するか|大津市が進める「ポケットの中の市役所」づくり

分散した行政サービスを一本化。「情報の正確さ」を強みに、市民の市政参加を促す大津市のアプリ戦略

人口約34万人を抱える滋賀県大津市。琵琶湖を擁する広大な市域を持つ同市では、これまで各部局が主体となってWebサービスやアプリなど、多様なデジタル施策を推進してきました。しかし、その「個別最適」な取り組みの結果、市民にとっては行政サービスごとに異なるアプリやWebサイトを使い分ける必要があり、利便性が損なわれていました。

また、利用者登録に際しても、従来の手入力に頼る手法では、氏名や住所の正確な属性データを取得することが難しく、集まった情報をその後の行政施策に十分に活用できないという課題もありました。

こうした課題の解決に向けて、大津市は「行政サービスの入り口」として、マイナンバーカードの電子証明書を利用した公的個人認証サービス(JPKI)の機能を搭載した公式アプリ「ポケットおおつ」を導入しました。

この「窓口の統合」と「データの正確性」を両立する取り組みは、リリースから半年足らずで、当初の令和7年度目標(3,000人)を上回る約5,000人の住民による登録を達成し、目標を上回るペースで着実な一歩を踏み出しています。 

本記事では、大津市DX推進室の担当者に、デジタル接点の統合と「正確なデータ」の取得がもたらす価値と、それを支える運用体制や工夫について詳しく伺いました。

(写真:大津市 DX推進室齋藤様)
(取材・構成:ポケットサイン株式会社)

分散したデジタル接点と、正確な利用者情報の取得が困難という課題

ーーまずは、ご自身の自己紹介と、本プロジェクトにおける役割についてお聞かせください。

齋藤様 私は現在、大津市のDX推進室に所属しています。本プロジェクトには、大津市独自の市民ポータルアプリとしての構想が具体化し始めた立ち上げ当初から携わっており、現在は「ポケットおおつ」のサービス設計や庁内の利活用調整、および運用全般のハンドリングを担当しています。

ーーそれでは、公式アプリの構想が立ち上がった背景にある、当時の課題について教えてください。

齋藤様 大きな課題感としてあったのは、市民向けのデジタルサービスが「分散」してしまっていたことです。各部署が個別最適でWebサイトやアプリ、LINEといったサービスを次々と展開した結果、市民との接点が多岐にわたりすぎてしまいました。

ーー市民の目線からは、どこにアクセスすればよいか迷う状況だったのですね。

齋藤様 その通りです。市民の方から見ると「このサービスはこのアプリ」「あっちの手続きは別のWebサイト」というように、デジタル上の窓口がバラバラでした。どこで何を確認すればいいのかが非常に分かりにくく、せっかくの便利なサービスが埋もれてしまっていたのです。こうした状況を打破するために掲げられたのが、「デジタル行政のタッチポイントの統合」というキーワードでした。

ーー統合と同時に、「市政への参加」というキーワードも重要視されていたと伺いました。

齋藤様 はい。もう一つの重要なテーマが「市政への参加を促す仕掛け作り」でした。

市民の皆様に主体的に街づくりへ関わっていただくには、一方的な情報発信だけではなく、行政との接点を「自分事」として捉えてもらうための動機付けが必要です。そのための有力な手段として、私たちはポイントなどのインセンティブを通じて「行動変容」を促す仕組みが必要であると考えました。

ーーそこで「正確な利用者情報の取得が困難」という課題が浮上してくるわけですね。

齋藤様 そうです。特定のターゲットに最適化された情報を届けたり、ポイント施策を効果的に展開したりするためには、大前提として「誰が、どこに住んでいて、どのような属性の方か」を正確に把握できなければなりません。

これまでのデジタルサービスのような「氏名や住所の手入力」に頼る手法では、どうしても入力間違いが発生し、行政として施策を横展開する際の大きな障壁となっていました。市民の利便性を高めながら、市政参加を促すための「確かな根拠」を持った施策を打つ。そのための土台となる、強固な共通基盤の検討が始まりました。

ポケットおおつ

(大津市公式アプリ「ポケットおおつ」のホーム画面。様々なミニアプリが並ぶ)

マイナンバーカードを「信頼の鍵」に。正確なデータ取得がもたらす期待値

ーーそもそも、ポケットサインを知ったきっかけは何だったのでしょうか。

齋藤様 令和5年の夏頃、宮城県の取り組みをメディアで見かけたことが最初のきっかけでした。

当時、大津市では「デジタル行政のタッチポイントの統合」というキーワードを掲げていました。市民と行政の接点をいかに一本化し、さらに市政への参加を促すための「ポイント施策」をどう有効に機能させるか。ポケットサインのサービスについて詳しく話を聞く中で、私たちが抱えていたこれらの課題を解決できる確信が持てました。

ーー検討を進める中で、特に魅力に感じた点はどこでしたか。

齋藤様 最大の魅力は、マイナンバーカードを活用した公的個人認証サービス(JPKI)を基盤に据えている点です。住民が登録時にカードをスマホにかざすだけで「正確な属性情報」が取得できる基盤は、将来的なEBPM(根拠に基づく政策立案)に向けた、極めて重要な基盤づくりになると考えました。

ーー将来を見据えた「データの信頼性」を重視されたわけですね。

齋藤様 そうです。加えて、将来的に機能をどんどん増やしていける「拡張性」も重要でした。ポケットサインは「ミニアプリ」という形態で多様なサービスをラインナップしており、導入後の展開イメージが非常に湧きやすかったのです。スクラッチでゼロから開発するのに比べれば、コストを抑えつつ迅速に機能を拡充できる点は、予算の限られた地方自治体にとって非常に大きな魅力でした。

ーー一方で、導入にあたって不安や懸念事項はありましたか。

齋藤様 やはり「マイナンバーカード連携を必須とすべきか」という点は大きな論点になりました。
行政サービスとしては、できるだけ全市民を対象にするのが基本であり、マイナンバーカードを保有していない方を取り残すわけにはいきません。

そのため私たちは、まずはアプリの認知と登録者層を広げることを優先し、マイナンバーカードを持っていなくてもアプリの登録・利用を可能とする設計を取り入れることにしました。その上で、ポイント施策などを通じて、利便性を実感しながら段階的にカード連携を促していくという方針を立てたのです。

ーー競合他社との比較では、どのような点が決め手となりましたか。

齋藤様 プロポーザルを通じて、単なる価格だけでなく、技術力や実績、そして何より「自治体側の意図を汲み取ってくれる企画力」を総合的に評価しました。また、自治体独自のブランドとして「ポケットおおつ」という名称で展開できる点も、市民に愛着や帰属意識を持ってもらうための重要な要素でした。最終的に、防災・お知らせ・アンケート・イベント・ポイントという5つのミニアプリを同時に導入でき、かつ将来のロードマップが最も明確に描けたことが、選定の決定打となりました。

市幹部が託した「アプリの編集長」。全体最適を貫く運用体制とは

ーー導入にあたり、庁内の運用体制はどのように構築されましたか。

齋藤様 市幹部からは導入にあたって「DX推進室がアプリの『編集長』になりなさい」という明確な指示がありました。自治体のデジタル施策でよくある失敗は、各部署が自分たちの都合で情報を載せた結果、市民にとって使いにくい「情報の闇鍋」のような状態になってしまうことです。

ーーその「情報の闇鍋」状態になると、どのような弊害があるのでしょうか。

齋藤様 単に情報が多いだけであればまだしも、そうなると市民はアプリを「自分には関係のないノイズ」だと判断して通知を切り、最終的にはアンインストールしてしまいます。一度アプリを消されてしまえば、行政と市民の貴重なデジタル接点は完全に失われてしまいます。利便性を高めるために始めたはずが、結果として「市民の離脱」を招いてしまうことが最大の懸念でした。

ーー「編集長」として、具体的にどのようなハンドリングをされているのでしょうか。

齋藤様 情報の掲載可否やデザインの統一感、世界観の一貫性に関する決定権を、DX推進室に集約しています。各部署からの「載せたい」という依頼をそのまま発信するのではなく、市民にとっての価値を基準に私たちが審査し、必要であれば読みやすさを考慮して文言の編集まで行います。

ーー他部署との調整で苦労されることはありませんか?

齋藤様 意外と思われるかもしれませんが、今のところ大きな反発はありません。もともと市公式LINEの運用なども私たちが一括して持っていた背景があり、他部署も「情報の出し分けや見せ方はDX推進室の専門領域」と信頼して任せてくれています。市幹部から「編集長」という役割を明確に与えられていたことも、全体最適を優先する文化を庁内に浸透させる大きな後押しになりました。

ーー通知の頻度などもコントロールされているのですか?

齋藤様 はい。プッシュ通知は現在のフェーズでは、本当に必要な情報だけを厳選しています。正確な属性情報を活かしたセグメント配信を徹底し、情報の統合と「受け手にとっての最適化」を両立させることで、「これは自分に必要なアプリだ」という信頼を築こうとしています。

行政の「信頼感」と「親しみやすさ」を届ける。登録のきっかけを作る広報・ポイント戦略

ーーリリース後の普及に向けて、具体的にはどのような施策を展開されたのでしょうか。

齋藤様 まず、アプリをインストールしてもらうための強力な動機付けとして、ポイントを活用したキャンペーンを実施しました。アプリにマイナンバーカードで登録した際に300ポイントをプレゼント。そのポイントで抽選に参加ができ、2,000名に1,000円分のQUOカードペイが当選するキャンペーンです。

令和6年度の登録者数目標としては3,000人を掲げていましたが、このキャンペーンが大きなきっかけとなり、リリースから半年足らずで約5,000人の登録者数を獲得することができました。キャンペーン終了後も一時的な増加に終わらず、着実に伸び続けている点に、単なる一時的な流行ではなく、確かな地固めができているという手応えを感じています。

ーー今回、当社(ポケットサイン)でアプリ宣伝用のチラシデザインを制作させていただきましたが、現場での評判や効果はいかがでしたか。

齋藤様 非常に良かったです。自治体が自前で作る広報物はどうしても情報を詰め込みすぎる傾向がありますが、今回制作いただいたものはプロの手による洗練されたデザインでした。

行政としての「信頼感」を保ちつつ、市民が直感的に「使いやすそうだ」と感じられる親しみやすさがあり、庁内の職員からも「非常に見栄えが良い」と好評でした。自信を持って各窓口へ配布することができました。

ーー各部署の「窓口」では、さらに独自の工夫もされているそうですね。

齋藤様 はい。チラシの掲示に加えて、市役所内の各行政窓口に、目を引く「三角POP」を設置しています。

壁面のポスターでアプリの存在を広く知ってもらいつつ、窓口で職員と対面する際のすぐ横にこの三角POPがあることで、より確実に市民の目に留めることができます。デザインについても、アプリのロゴやカラーを活かして「一目で公式アプリだと分かる」ことを意識しました。物理的な窓口という「行政との接点」に来られた方に、その場でデジタルへの入り口を提示する。このアナログとデジタルの連携を丁寧に行うことが、登録への一番の近道だと考えています。

(大津市のアプリ訴求の取り組み)

使いやすさが生んだ口コミの連鎖と、高齢者にやさしいデジタル体験

ーー運用を開始してみて、数字以外で感じている成果はありますか。

齋藤様 大きな成果だと感じているのは、操作に関する市役所への問い合わせが非常に少ない状態であることです。以前運用していた別のデジタル施策では、利用者がまだ少ない段階でも「使い方が分からない」といった苦情や相談が頻発していました。

今回は約5,000人が登録した段階でもそうした混乱はほとんど起きていません。あくまで私個人の考えではありますが、「行政サービスはマニュアルがなくても使えるのが理想」だと思って設計にこだわってきました。説明書を読まなくても直感的に操作でき、市民の皆様がやりたいことに自然と導かれている。特別なサポートを必要とせず、多くの方にスムーズに受け入れられている現状は、アプリの質の高さを表していると感じています。

ーー現場では、市民の皆様の間でアプリがどのように活用されているのでしょうか。

齋藤様 老人福祉センターなどの現場を見ると、大きく2つのポジティブな変化が起きています。

一つは、「口コミによる自然な拡散」です。センターの入り口などに設置した二次元バーコードをスマホで読み取るとポイントが貯まる仕組みを導入しているのですが、70代から90代の方までがご自身でスムーズに操作されていると聞いています。使い勝手が良いからこそ、利用者同士で「もう登録した?」「ここで読み取るんだよ」と教え合う輪が自然に広がっているんです。行政が一方的に使い方を教える講習会を開くのではなく、市民の皆様のコミュニケーションの中でアプリが浸透していく。これは理想的な形だと思っています。

もう一つは、ポイントが「来館や健康づくりのモチベーション」になっていることです。単にポイントをもらえることが嬉しいだけでなく、ポイントが貯まっていく過程が日々の活動の「見える化」になっています。「今日もセンターに来て、元気に活動した」という証がスマホの中に残っていく。それが楽しみとなり、「明日もまた来よう」「継続して通おう」という意欲に繋がっているという声を、現場の職員からも聞いています。

ーー「使いやすさ」が口コミを生み、「ポイント」が継続を支えているのですね。

齋藤様 はい。デジタルが「難しくて敬遠するもの」ではなく、日常の交流を深め、自身の健康活動を前向きに続けるための身近な存在になり始めています。この「全世代が自走し、楽しみながら使い続けている」という実態こそが、数字以上に大きな手応えですね。

「ポケットに市役所を」市民の市政参加を促す、新たな行政インフラの未来図

ーー「ポケットおおつ」は着実な一歩を踏み出していると感じました。最後に、このアプリが描く将来の展望について教えてください。

齋藤様 私たちの本分は、物理的な庁舎に来なくても手続きが完結する「デジタル市役所」を構築することにあります。休日や深夜でも、「ポケットの中に市役所が入っている」ような感覚で、市民の皆様がいつでも行政サービスを受けられる状態を当たり前にしていきたいですね。

ーー具体的に、今後追加を予定している機能などはありますか。

齋藤様 令和8年度は、すでに約10万ダウンロードの実績がある既存のゴミ分別アプリを、ポケットおおつ内の「ゴミ出しカレンダー」へリプレイスすることや、道路の不具合などを市民が写真で報告できる「インフラ通報機能」の実装を予定しています。

これらは単なる利便性の向上だけではありません。マイナンバーカード連携による正確な属性情報をベースにすることで、「どの地域の、どの世代が、何を課題と感じているのか」という精度の高いデータを蓄積できます。これをEBPM(根拠に基づく政策立案)に繋げ、アンケートの郵送代削減や、ターゲットを絞った無駄のない施策展開へと昇華させていきたいと考えています。

ーー「市政への参加」という点でも、アプリが果たす役割は大きそうですね。

齋藤様 その通りです。これまでの行政は「一方的なお知らせ」になりがちでしたが、今後はポイント施策やアンケート機能をさらに活用し、市民の皆様が主体的に街づくりに関われる仕組みを強化します。

デジタル接点の統合と、そこから得られる「正確なデータ」。この地道な地固めこそが、本当の意味で市民に使い続けられ、市政への参加を促すデジタルインフラへの近道であると確信しています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

自治体公式アプリなら「ポケットサイン」

大津市様の事例で見てきたように、自治体DXの成功の鍵は、バラバラだった市民との接点を一本化し、マイナンバーカードの電子証明書を利用した公的個人認証サービス(JPKI)を基盤とした「正確なデータ」を施策に活かすことにあります。

ポケットサインは、公的個人認証サービス(JPKI)に対応し、防災、子育て、地域ポイント、インフラ通報など、多様な行政・地域サービスを一つのスマートフォンアプリに集約できる地域プラットフォームです。

ポケットサインが選ばれる理由と特徴

  • 「住民の自走」を支える高いUX
    マニュアル不要で直感的に使えるインターフェースを提供。大津市様の事例でも証明された通り、高齢層を含む全世代がストレスなく使いこなせる「質の高いデジタル体験」を実現します。

  • 戦略的な段階導入とOEM提供
    大津市様の「ポケットおおつ」のように、自治体独自のブランド名での展開(OEM)が可能です。既存アプリをいきなり置き換えるのではなく、新しい価値(ポイント等)から段階的に導入し、既存サービスを統合していく柔軟なロードマップを描けます。

  • 「PocketSignLink」による広大な拡張性
    他社サービスや既存のWebシステムともシームレスに連携。健康歩数に応じたポイント付与や、LINE公式アカウント・地域通貨アプリへの遷移など、自治体ごとのニーズに合わせたエコシステムを構築できます。

  • 属性に基づいた「届く」プッシュ通知
    JPKIによる正確な居住地や年代データを活用し、特定の対象者にのみ必要な情報を届けるセグメント配信が可能。情報の「ノイズ」を減らし、市民との信頼関係を深めます。

導入のご相談・資料ダウンロード

ポケットサインでは、自治体ごとの課題やニーズに合わせた最適なパッケージをご提案します。地域創生交付金等の活用を含めたコンサルティングや、広域自治体による包括契約にも柔軟に対応可能です。
「デジタル市役所」の実現に向けた第一歩として、ぜひ詳細資料をご覧ください。

▼自治体向け「ポケットサイン」資料ダウンロードhttps://pocketsign.co.jp/contact/download/government

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