Case study

導入事例

2026-02-18

市町村が共同利用できる地域ポイント|宮城県「みやポ」広域展開を支えた実装のリアル

宮城県は、みやぎ県民公式アプリ「ポケットサイン」上で使えるデジタル地域ポイント「みやぎポイント(愛称:みやポ)*」を市町村が共同利用できる県域の共通基盤として整備しました。目的は、災害時に県民の命を守るデジタル基盤の普及にあります。

ポイントを強力な「フック」として、平時から県民のスマホに防災機能を備えたアプリをインストールしてもらう。この政策手段としてのポイント事業という視点が、一般的な地域ポイントとは一線を画す、宮城県の独自性です。

2024年11月の本格展開以降、アプリ登録者は1年4ヶ月で100万人を突破。加盟店は大手チェーンを起点に拡大し、直近では約3,000店舗規模となっています。さらに、ある程度の店舗数が確保された市町村では、発行数の約9割に相当するポイントが地元で使われているというデータも、県内市町村の参画を後押ししています。

一方で、ポイント制度を「一度配って終わり」ではなく、継続して運用するためには、加盟店の管理、住民問い合わせ対応、精算といった自治体職員の“運用負荷”を下げる工夫が必要です。今回は、経済商工観光部 富県宮城推進室 企画員の津和本様に、「みやポ」立ち上げの舞台裏と、自治体がつまずきやすい論点を伺いました。

* みやぎポイントは、県内の加盟店で1ポイント=1円として利用できる仕組みです

(写真:経済商工観光部 富県宮城推進室 企画員 津和本様)
(取材・構成:ポケットサイン株式会社)

「防災力の向上」と「県・市町村の共通基盤となるポイント」、両方を同時に満たす設計へ

ーーまず、みやぎポイント立ち上げの背景から教えてください。

津和本様 東日本大震災が発生した際、県内には多くの避難所が設置されましたが、「誰がどこにいるか」を把握することは、非常に困難でした。これを教訓として、マイナンバーカードによる公的個人認証を活用した避難所チェックイン機能がある、みやぎ県民公式アプリを県民に広く普及させたいという、村井知事の思いで事業がスタートしました。

とはいえ、防災機能だけのアプリではなかなか、普及は進みません。そこで、防災アプリ登録のインセンティブとしてポイントを活用することにしたのですが、それだけではもったいない。県では様々な給付事業やキャンペーン参加者への景品配布を実施していますが、こうした県事業にデジタルポイントを活用すれば、「即時発行」でき、現物送付も不要なので、事務効率化にもつながります。

さらに、県と市町村が同じポイントを活用すれば、振り込み手数料など運用コストの低減はもちろん、住民や店舗への普及もより進むと考えました。そこで、ポイント制度の立ち上げにあたっては、県・市町村の共同利用に活用でき、長く事業を続けられる基盤を整えることも意識しました。

ーー自治体のポイント事業は「経済対策」として実施されることが多いですが、実施のハードルが高い取り組みですよね。

津和本様 そうですね。紙の商品券ではなく、ポイントの場合、デジタルに不慣れな利用者や店舗への支援が必要になりますし、「みやポ」の場合は、分かりやすさを優先して、県内全ての加盟店で使える仕様となっていますので、県事業はともかく、地元店舗の支援を目的とする市町村の経済対策事業に使ってもらえるかは、当初の懸念材料でした。

ただ、実際に県で「みやポ」を発行したところ、地元利用が多い実態がデータとして見えてきました。例えば、仙台市など、加盟店舗数が多い地域に利用が集中することを心配していましたが、主に地元での買い物に使われていたことは、市町村が「みやポ」事業に参加するための好材料になったと思います。

ーー周知・利用促進の観点で、効果が大きかった打ち手はありますか。

津和本様 我々は、アプリの新規登録者に「みやポ」が付与されるキャンペーンを実施したわけですが、幸いなことに地元新聞社やテレビ局に、その時点の登録人数とキャンペーンの経過をかなりの回数、報道していただくことができました。報道のたび登録者が増加したことを、強く実感しています。

ただし、広報による登録者の増加は一過的なもので、長くは続きません。様々な広告媒体を採用しつつ、市町村や利用店舗にも周知にご協力いただくなど、県民が生活の様々な場面で「みやポ」を目にする機会を作るよう心がけました。

また、当初は抽選でポイントを付与する方式を採用しており、約2か月で登録者が16万名増加しました。その後、抽選をやめて必ずポイントがもらえる方式に切り替えたのですが、効果は想像以上で、18日間で45万名の登録がありました。やはり、抽選と全員当選の差は非常に大きかったです。

一方で、応募が増えると、「アプリの登録方法や使い方が分からない」といった問い合わせや相談が増えます。こうした相談を受け付ける支援体制の充実は、利用促進における非常に重要な要素です。特に、デジタルに不慣れな方への対応は、1件あたりの対応時間が長くなります。コールセンターの回線数や相談会の窓口数は、多めに確保する必要があります。

1,200店舗→約3,000店舗へ。加盟店確保は「順番」と「逆算」がすべて

ーーポイント利用店舗数を、短期間で一気に伸ばされた印象があります。どんな戦略だったのでしょうか。

津和本様 最初に決めた方針は、ポイント利用者の利便性を優先し、スーパー・コンビニ・ドラッグストアなどの大手チェーンを先に開拓する、ということでした。

ーー大手チェーンは社内の合意形成などに時間がかかるイメージがあります。

津和本様 社内決裁、会計上の取扱整理、従業員の教育などが必要ですから、会社によっては準備に3〜4か月かかることもあります。我々は11月からポイント発行を開始しようと決めたため、遅くとも7月にはオファーをしなければなりません。そこで、新年度早々に加盟店舗に関するルールを策定して、企業回りをスタートしました。結果として、初年度は約1,200店舗に参加いただき、2年目となる今年度は、約3,000店舗*まで拡大しています。

*「みやぎポイント」利用可能店舗
https://www.pref.miyagi.jp/documents/57143/20251024miyapolist.pdf

ーー「大手を先に」は賛否も出そうですが、運用を成立させる上では合理的ですね。

津和本様 もちろん、それと並行して、県内の参加希望店舗を幅広く受け入れるための公募や、事業者向け説明会も実施しています。当初は、「みやポ」の知名度も低く、商店街や地元の店舗からの応募が少なかったのですが、実際にポイントの発行や利用が始まり、「みやポ」が普及するとともに、こうした店舗からの申込が増えてきています。

県内の市町村が「みやポ」を共同利用するようになれば、さらに地元の店舗が増えてくるのではないかと、期待しています。

ーー一方で、加盟店が増えすぎると管理コストが膨大になる懸念もあります。

津和本様 おっしゃる通りです。加盟店舗には、利用店舗ステッカー、決済用二次元コードを貼り付ける台紙、ポスター、マニュアル類などを無償で提供していますので、店舗数の増加は管理コストの上昇に直結します。県と市町村が同じ「みやポ」を使うことで、コストをある程度は軽減できると考えていますが、それにも限度があります。

将来的に、ポイント事業をどこまで拡大するのかを想定した上で、「住民の利便性」と「運用コスト」のバランスに基づく適切な店舗数を、想定しておく必要があります。

市町村の参画は「当たりをつける」ことから始まる

ーー県全域でポイント事業を展開していくには、各市町村の参画や協力が不可欠です。膨大な調整が必要だったと思いますが、何から着手されたのでしょうか。

津和本様 まずは「紙の商品券事業」を実施している市町村を訪問して、デジタル化の意向を伺うことからスタートしました。こうした商品券事業はデジタルポイントの活用によるコスト低減や省力化のメリットが大きく、デジタル化の必然性が高いと考えたからです。

ーー「メリット」を提示しても、現場の市町村担当者にはまだ「デジタル化による運用の重さ」への不安があるように思います。そこはどう乗り越えたのですか。

津和本様 デジタルに不慣れな住民や店舗への支援、システムの選定など、様々なハードルがあるため、市町村が単独でデジタルポイントを運用することは、非常に大変です。そこで、市町村には、我々と同じアプリでポイント事業を実施してもらい、県がコールセンターの設置や住民相談会の開催などを担うことを提案しました。

ーー運用面の不安が解消されたとしても、自治体としては「地元で使われず、外部に資本が流出してしまうのでは」という懸念も残るのではないでしょうか。

津和本様 その点は、県が実施した「みやポ」事業の「データ」が大きな力を発揮しました。ある程度の店舗数が確保された市町村では、発行数の約9割に相当するポイントが地元で使われるケースが多いことが分かっています。

ーー市町村の参画を“絵に描いた餅”にしないために、運用に乗せるコツはありますか。

津和本様 先程も述べましたが、デジタルポイントの導入は自治体にとって大変な労力を要する事業だと思います。どこの市町村でも取り組めるものではないため、まずはデジタル化の必然性が高い市町村と県でポイント共同利用の先行事例を作り、多くの市町村が簡単に参画できるスキームを作り上げた後に、他の市町村にも広げていきたいと考えています。

「想定以上にデジタルが難しい」70回超の相談会と、1日15件の県庁来訪

ーー住民への普及やサポートなど、現場で運用してもらううえで最も大変だった点を教えてください。

津和本様 「デジタルが難しい」という住民の方が想像よりも多かったことです。令和6年度は、およそ60万名の方がポイントを取得したのですが、県内全ての市町村で最低1回、合計で70回以上の対面式相談会を開催しています。コールセンターも最大20回線程度を運用しました。県庁内には相談窓口を設けていないのですが、多くの方が県庁に直接来訪されました。ピーク時は1日15件ほどの来訪があり、ロビーで案内しては執務室に戻り、またロビーに降りて…という対応が続きました。

ご相談の内容は、「そもそも、何をすればよいか分からない」、あるいは、「NFCでマイナンバーカードを読み取れない」といったものが多かったように思われます。

また、マイナンバーカードへの不安感も根強く、「ポイントを利用すると店舗に個人情報が伝わる」など、SNS上で誤解が広がりそうになる場面もありました。丁寧に説明し続けるしかない、というのが実情です。

ーーかなりの運用負荷ですね。一方で、ここを解決に向けて前に進めるために、どう整理されていますか。

津和本様 相談会を重ねることで、多くの方がつまずくポイントが見えてきました。分厚いスマホケースのせいでNFCの読取に失敗する、「みやぎポイント」という名前のアプリがあると勘違いして、ストアで「ポケットサイン」を探せない、といった具合です。ただ、一気に解決できるような問題ではないため、トラブル対応のノウハウを蓄積しながら、住民にアプリが浸透するまでは、引き続きコールセンターなどの支援体制を維持する必要があると考えています。

インタビュー後の動き:国の重点支援交付金を活用し仙台市が「みやぎポイント」を配布へ

インタビュー実施後、多くの市町村で国の重点支援地方交付金(物価高騰対応等)*1を活用した、「生活者支援」の事業が実施されています。そうした流れの中で、宮城の県庁所在地である仙台市も「みやぎポイント」を活用してポイントを市民に配布する方針*2を示しています。

県が「運用のための共通インフラ」をあらかじめ整えておくことで、市町村は煩雑なシステム管理や事務作業に翻弄されることなく、「誰に、どのような支援を届けるか」という政策本来の意思決定にリソースを集中できるようになります。

「県が整え、市町村が活かす」このモデルは、ポイント事業・デジタル商品券を検討する自治体にとって、次代の具体的な選択肢として大きな示唆があるはずです。

*1 参考:内閣府サイト 「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/juutenshien.html

*2 参考:仙台市HP「せんだい生活応援!!ポイントキャンペーンについて」https://www.city.sendai.jp/kuse-kikaku/seikatu/ouenpointo.html

自治体職員向けまとめ:ポイント事業を“続く仕組み”にするための実務ポイント

津和本様のお話から見えた、自治体向けの要点を整理します。

  • 最終形(継続モデル)を先に置く:短期配布で終わらせない前提で、市町村・民間連携のロードマップを早期に設計

  • 加盟店は逆算で確保:大手チェーンは準備期間が必要。開始日から逆算し、早期に意思決定を取る

  • 市町村連携は“ターゲット設計”が9割:紙券を毎年実施している自治体など、実装可能性の高い層から始める

  • 県域で“住民対応・店舗対応”を束ねる価値:相談会や問い合わせ導線を共通化できると、市町村単独では越えにくい壁を越えやすい

  • データが政策判断を助ける:地元で消費が回っている実態データが、市町村の意思決定の不安を解消する

ーー今後、県として「続く仕組み」にしていく上で、特に重要な論点はどこでしょう。

津和本様 制度の維持には、毎年ある程度のポイントが流通することが必要不可欠です。宮城県では、県の施策のインセンティブとして使いつつ、商品券事業などで市町村にも同じ基盤を活用していただくほか、民間事業者と連携したポイント発行にも取り組みながら、流通量を増やしていく予定です。

こうしてポイント制度を維持しておけば、国の経済対策などを活用して市町村が給付事業を実施する際にも、すでにある基盤を活用して、コストを抑えつつ迅速に給付事業をスタートすることができるはずです。

ポケットサイン地域ポイントについて

マイナンバーカード認証と連携するアプリ基盤「ポケットサイン」内で提供される、自治体向けのデジタル地域ポイントです。住民支援や地域消費喚起、行動の動機づけとなる施策を、「配って終わり」にせず、運用・検証まで含めて実装できる共通基盤として活用できます。

  • 特長1:確実な本人確認に基づく、安心・公平なポイント運用
    マイナンバーカード認証を軸に本人確認を行うことで、同一人物への重複付与や二重申請、なりすましを防止。「誰に配布し、誰が利用したか」を明確にできるため、不正を抑制し、監査や説明責任にも耐えうる運用が可能です。

  • 特長2:施策の効果を“見える化”できるデータ活用
    本人確認に基づき、利用者の居住地とポイントの利用地域を把握できるため、「都市部に資金が集中していないか」「地元で消費が回っているか」といった実態を根拠あるデータとして提示できます。今回の宮城県の事例のように、居住市町村内での利用割合を示すことで、市町村や関係者の判断材料として活用できます。

  • 特長3:自治体の実務負担を抑えた、運用前提の設計
    ポイント配布に伴う事務手続きや住民問い合わせ、加盟店管理など、運用面で発生しやすい負荷を前提に設計。即時発行や現物配布不要といった仕組みにより、紙の商品券に比べて業務負担を大きく軽減します。

  • 特長4:目的に応じて使い分けられる柔軟なポイント設計
    日常の買い物で1ポイント=1円として使う設計に加え、抽選応募や体験型施策のインセンティブとして活用するなど、自治体の施策目的に応じたポイントの使い方を、同じ基盤上で設計できます。

自治体DXの新たな形「県が基盤を整え、市町村が相乗りする」

宮城県の「みやぎポイント」事業から見えてきたのは、県が共通基盤を整備し、市町村がその上に相乗りすることで、運用負荷とデジタル導入のハードルを同時に下げられるという現実的なモデルです。

ポイント事業の立ち上げには、多くの労力が必要です。加盟店の確保、住民対応、問い合わせ対応、事務手続き――こうしたプロセスを一元化して、県域で束ねることで、初めて「続く仕組み」になります。

さらに、利用実態をデータとして把握できることで、「地元で消費が回っているのか」「県域で展開しても偏りは生まれないのか」といった自治体の判断に必要な材料を、感覚ではなくファクトで示せるようになります。

国の重点支援地方交付金をはじめ、生活者支援の実装が求められる局面が増える中で、すでにある共通基盤を活用するという選択肢は、今後ますます重要になるでしょう。

「県が整え、市町村が活かす」。
宮城県の取り組みは、ポイント事業・デジタル商品券を検討する自治体にとって、次の一手を考えるための具体的なヒントを示しています。

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