2026-02-17
避難所受付をアプリでDX|震災の教訓からポケットサイン防災を導入した宮城県の事例
宮城県は令和6年11月に避難支援アプリ「ポケットサイン防災」を導入し、県内の全35市町村と連携した広域的な避難所運営のDXを推進しています。
平成23年の東日本大震災で避難者の手書き名簿の作成に2週間かかり、情報の正確さと更新の即時性に課題を残したことを教訓に、スマートフォンで避難所の受付が完結し、自治体側が住民一人ひとりの避難状況を正確に把握できる仕組みを構築しています。令和7年度は9自治体がポケットサイン防災を活用した訓練を計19回実施済みで、着実に普及に向けた取り組みが進んでいます。
「都道府県単位の広域防災DXが全国に広がるためのロールモデルになれれば」と意欲を見せる宮城県復興・危機管理総務課主事の池田様にお話を伺いました。

(写真:宮城県復興・危機管理総務課主事の池田様)
(取材・構成 ポケットサイン株式会社)
市町村をまたぐ広域連携に多大なメリット
ーー宮城県は令和6年11月に県内全域で「ポケットサイン防災」を導入されました。その背景について教えてください。
池田様 まず、災害時の避難所運営自体は市町村の役割となっています。ただ、東日本大震災では市町村の職員自身が被災したり、道路の寸断もあったりして、避難所に駆けつけるべき職員が行くことができず、職員の派遣ができないという状況がありました。経験のない大災害でしたので、単独の自治体レベルでは対応しきれないような被害とニーズが発生しました。
そうした経験から、災害対応、特に避難所運営や物資の供給、避難生活の支援に関わる部分は市町村の枠を超えた広域的な連携が必要不可欠だと強く感じたことが、ポケットサイン防災を導入した背景としてあります。
ーー広域連携のところを県が支援することの重要性が浮き彫りになったということですね。
池田様 そうですね。応援職員の受け入れに関する計画も、震災を契機として、各自治体で整備が進められているところです。
ーーなるほど、ありがとうございます。そうした中で、避難所運営をはじめとする災害対応の広域的な連携に我々のポケットサイン防災が役に立つと判断されたわけですね。
池田様 はい、ポケットサイン防災の導入のメリットは大きいと考えています。やはり、情報共有の迅速化、円滑化が進む点が最も大きなメリットですね。また、県と市町村とで共通のプラットフォームを利用していますので、例えば県の職員や他の市町村の職員が被災した自治体へ応援に入った時も、スムーズに作業を引き継ぐことができるといったメリットもあると感じています。

ーー実際にポケットサイン防災を使う市町村の受け止めは何かお聞きになっていますか。
池田様 ポケットサイン防災には、「受付」の機能だけでなく、年齢や居住地域などに応じて避難指示などをプッシュ通知で送る機能や、避難所におけるニーズ調査等に活用できるアンケート機能もあります。市町村からは「通知機能は災害情報を知るうえで有効なので、住民の方にはアプリを使っていただきたい」とのお声をいただいています。
一方で、アプリは決まったフォーマットになっているのに対し、自治体ごとに避難所運営の方法がそれぞれ異なるので、「もっとこうしてほしい」というような要望が寄せられることもあります。全ての要望にお応えするのはなかなか難しいですが、避難所の運営というものを真剣に考えてくださっているからこそ、色々な要望があるのだと思いますので、最善を尽くし、市町村の皆様が使いやすいような運用にしていければと思っています。
※宮城県が県内全域で「ポケットサイン防災」を導入した際のプレスリリースはこちら。ポケットサイン防災の概要が分かります。
紙の名簿は作成に2週間
ーー大震災当時の避難所の受付業務ではどのような課題があったのでしょうか。
池田様 私は震災後に入庁したのですが、当時の記録によると、避難所名簿の作成に大きな課題がありました。今もほとんどの自治体がそうだと思うのですが、職員が手書きで避難者名簿を作成していました。ただ、手書きなので、どうしても他の職員が文字を読み取ることができなかったり、必要な項目の記載が漏れていたりということが起きていました。また、記載が重複するといったケースもあり、情報としての信頼性が低い状態になっていました。
各避難所から、その自治体の災害対策本部に避難者の報告をする作業があるのですが、やはり、紙ベースの名簿ですから、リアルタイムではない報告になっており、そこも課題のひとつでした。
ーー他の媒体の取材で、当時現場にいらっしゃった別の職員の方にインタビューした際、「名簿を作るのに2週間くらいかかった」とおっしゃっていたので、本当に大変な作業だったんだと思いました。
池田様 はい、あれだけ大きな規模の災害でしたから、避難所を点々と移る被災者の方も多かったと聞いています。外出先で被災した方もいて、どの避難所に誰がいるのか把握できなかった点も、市町村としては大変だったと思います。
ーー市町村境を越えて避難所を移動する方もいらっしゃるでしょうから、広域で同じプラットフォームで動向を把握できるというところは、DX化として極めて重要なポイントなのかもしれませんね。
池田様 その通りだと思います。
ーーポケットサイン防災では、利用者(住民)がマイナンバーカードを使って利用登録することで、情報の確かさを担保する点が強みです。従来は住民票の写しを取得する時に使う程度だったかもしれませんが、ポケットサイン防災の導入から1年が経って、マイナンバーカードを活用することに対する住民の皆さんの反応はいかがでしょうか。

(ポケットサイン防災のアプリ画面イメージ)

(住民は避難所に掲出された2次元コードをスキャンするだけでチェックイン(受付)が完結。避難所管理者に即座に情報が共有される。アンケート機能で避難生活におけるニーズをリアルタイムで行政に伝えることもできる。)
池田様 おっしゃる通り、自治体職員が避難者の正確な情報を確認できるので、仕組みとしては有効だと考えています。令和6年11月の時点で県内では7~8割の方がマイナンバーカードを保有していますし、マイナンバーカードを持っていない方でも、代表者が一括して受付をできる機能も備わっているので、その点でも有効な仕組みだと思います。
ただ、マイナンバーカードを使う習慣がないため「使い方が分からない」というお声もいただいており、その点は課題だと思っています。
ーーそもそも防災用アプリの導入を検討していた時に重視されていたポイントは何かありますか。
池田様 ユーザーである県民と、避難所運営を行う自治体の職員の両方がそれぞれ使いやすい形にするというのが最も重視したポイントです。ユーザー目線ではできるだけシンプルなインターフェースが、行政目線では直感的な操作で受付や避難者の集計ができる管理画面が必要でした。
管理画面は、既存の県防災システムとできるだけ整合性がある情報項目を揃えるようにしています。

(ポケットサイン防災の管理画面イメージ。避難所ごとの人数、避難者の特性、不足物資が一目で把握でき、効率的な避難所運営をサポートする。)
ーー最初に県から各市町村にヒアリングを実施されたんですか。
池田様 アプリ導入に当たっては、市町村長が集まる会議において、説明とデモンストレーションを行ったほか、各市町村を訪問して、本アプリを導入する趣旨を丁寧に説明しました。説明会や意見交換も実施しました。
あとは、やはり市町村によって避難所の運営方法や災害対策本部の動きも違いますから、アプリが共通のフォーマットではありながらも、市町村が使用する機能を柔軟に選択できる形にできないかと、御社と調整をさせていただいています。
ーーはい、現在進行形ですね。当社もお役に立てるよう努めます。
3.11の被災自治体として改善要望を上げる
ーー実際に訓練で使ってみて、受付フローの運用などはいかがでしたか。
池田様 今のところ、紙の受付とアプリの受付を併用し、集計の段階で一つにまとめて対策本部に報告するやり方の市町村が多いです。どうしても従来の紙の受付は完全には無くせず、併用は続くと思います。マイナンバーカードやスマートフォンをお持ちではない方もいらっしゃいますので、そういった方を取り残すわけにはいかないからです。
その上で、市町村ごとにポケットサイン防災を部分的に取り入れるところから始めていただいています。一足飛びで全自治体が一斉に導入するのは市町村の事情もあるので、現場の声も聞きながら導入を進めていきたいと考えています。

ーーありがとうございます。訓練の場で職員さんや住民の皆さんはどのような反応でしたか。
池田様 まず、アプリを利用されている方からは非常に好感触で、利便性はしっかり体感していただけていると感じています。一方で、市町村職員の方にとってはアプリやパソコン入力、マイナンバーカードをかざしての登録など、状況に応じて使いやすい方法を選んでいただけるので、市町村の事情に合わせた形でお使いいただいています。なお、アプリを利用されていない方向けには、従来の紙による受付も継続される他、ご自身で操作が難しい方は、アプリを使えるご家族と一緒に登録していただくこともできます。
ーー職員さんから見て、管理画面の実際の運用はどのような感じでしょうか。
池田様 当然、各市町村に使ってもらいたいという思いはあります。一方で、市町村の方がそれぞれ与えられた使命を与えられた時間の中で、特に災害で混乱した時にしっかり遂行できるというのが一番優先されるべきことです。何がなんでも「全部アプリを使ってやってください」ということではなく、状況に応じて最適な手段を選択できる体制を取ってもらうことに気を配りながら進めています。
ーーポケットサイン防災の通知はどのように活用されていますか。
池田様 一部の防災気象情報は、気象庁発表の情報をLアラート(災害情報共有システム)から拾って自動で配信しています*。
*注:ポケットサイン防災はLアラートとの連携に対応しています。Lアラートから出た情報はポケットサイン防災に自動で通知されます。
ーー令和6年11月の導入からの1年間で改善したことはありますか。
池田様 そうですね、現場で避難所運営等の災害対応にあたる市町村の意見に耳を傾け、そこで出た意見や要望を御社と共有し、サービスに落とし込んでいただく、といったことを幾度となく行いました。例えば、GPSの位置情報を基に利用者の近くの避難所を表示する機能は、現場からの声を踏まえ実装していただいたものです。
ーーサービスの利用にとどまらず、弊社にアプリの改善を提案してくださるという行動が、すごく前向きだと感じました。やはり、そこは「一緒により良いサービスを作るぞ」というマインドから来ているのですか。
池田様 我々は東日本大震災で大きな被害を直接受けた自治体であり、その現場の声というのは、より良いサービスの提供に繋がり、ひいては県民と自治体の防災力向上に繋がる、とても重要な情報だと考えていますので、細かい点も含めてその都度共有させていただいています。
ーーありがとうございます。たいへん貴重なユーザーの生の声です。
宮城県が防災DXの全国のロールモデルに
ーー導入後1年でどのような効果がありましたか。
池田様 防災訓練でポケットサイン防災を使用した件数は、令和6年度は11月から利用開始ということもあって1件だけでしたが、令和7年度は市町村の防災や避難所担当の職員を対象に説明会、研修会を開催するなどの支援を行ったこともあり、県が協力した分だけでも15自治体、19回の訓練でポケットサイン防災が活用されました。これ以外にも市町村が独自に実施する防災訓練もありますので、実運用に向けて着々と市町村の体制整備が進んできているなと感じています。

ーー素晴らしいですね。弊社や「ポケットサイン防災」の評価できる点と、これから期待することをお聞かせください。
池田様 まず、こちらから提案させていただいてからのレスポンスや対応が非常に速いので、助かっています。アジャイルというか、短いサイクルでPDCAを回して、課題が見つかるたびにアップデートするということを短期間でやっていただいているので非常に心強いです。
更なる改善を期待するところとしては、エンジニアさんの声をもう少し聞きたいですね。色々とこちらから提案することに対して「できそうですか、それともできないですか」という開発の感触について、例えば「どういった理由で難しい」「どれくらい時間がかかるか」といった点にもっと踏み込んだ内容で説明していただけると、より深く検討しやすいかなと思います。
ーーありがとうございます。エンジニアに申し伝えます。最後に、防災DXを考えている他の自治体に向けたメッセージをお願いします。
池田様 宮城県がひとつのロールモデルになれればいいなと考えています。当県は都道府県単位の広域な防災システムの運用に取り組んでいますが、こういった形のサービスが各地で展開されるようになれば、将来的には都道府県の枠を超えたシステムの構築も見えてくると思います。
しかし、その点において、データの互換性が重要になってきます。当県には「宮城県総合防災情報システム(MIDORI)」という独自の防災情報システムがありますが、ポケットサイン防災で取り扱う情報の形式を、MIDORIのフォーマットと互換性のある状態に近づけていければ、もっと使い勝手がよいサービスになるのではないかと思っています。
ーーありがとうございました。現場の皆様からの声を基にプロダクトを改善し、全ての市町村の皆さまに使っていただけるよう励んでまいります。
ポケットサイン導入の流れ
ポケットサイン防災は、マイナンバーカードを用いたスーパーアプリである「ポケットサイン」内のミニアプリです。アプリの導入により、スマートフォンとデジタル身分証を活用した迅速かつ正確な避難支援を実現します。
地方自治体の職員様向けには管理画面を用意しています(下図)。避難所ごとの人数、避難者の特性、不足物資などを一目で把握できるようになっています。最新の状況をデータで可視化し、効率的な避難所運営をサポートします。

導入に向けては無料トライアルを実施しています。当社が自治体ごとの課題・ニーズをヒアリングし、地域創生交付金等の活用を含めてご提案します。広域自治体で包括契約を行い、基礎自治体ごとに必要なミニアプリを契約する形も対応可能です。
※導入に関するお問い合わせは【こちら】
まとめ:自治体DXの新たな形
ポケットサインを活用したミニアプリの導入は、自治体主導のデジタル施策において新たな可能性を示しました。宮城県の成功事例は、他の自治体にも応用可能であり、地域活性化の手段として大きな注目を集めています。
「ミニアプリの活用で、地域活性化の選択肢が広がる」。今後もポケットサインの可能性は広がり続けるでしょう。
▶︎ポケットサインの活用を検討中の自治体担当者の方へ
「ポケットサインのミニアプリで、一歩先のDXを実現しませんか?」
お問い合わせはこちらから: https://pocketsign.co.jp/contact



