Interview

メンバーインタビュー

2026-06-17

次の社会の姿を描くのが私たちの役割。代表梅本が語るポケットサインの現在地

「衰退を止めるのではなく、次の社会を描く」。そう語るのは、ポケットサイン代表取締役の梅本 滉嗣さんです。

前回のインタビューからおよそ1年。京都市・北海道など大型自治体への展開が相次ぎ、給付事業を起点に行政DXへとつなげる独自モデルが全国で受け入れられ始めました。民間領域でも、HR領域を皮切りに新規事業がいよいよ動き出しています。

事業が大きく動き始めたいま、梅本さんが見据えているのは「現状維持」ではなく、人口減少という未曽有の変化の先にある「非連続な社会変化」です。

その基盤をつくる会社として、ポケットサインはどこへ向かうのか。事業の変化から組織づくりについて語ってもらいました。

目次

プロフィール

代表取締役CEO
梅本 滉嗣さん
日本学術振興会特別研究員DC1(京都大学 基礎物理学研究所)ダルマ・キャピタル株式会社取締役/Head of Researchを経て、2022年8月ポケットサイン株式会社を共同創業。2023年4月代表取締役に就任。理学博士(京都大学)/東京大学法学部卒

※所属および記事内容は、取材当時のものです。

自治体DXは新フェーズへ。「ばらまき」でなく「種まき」という発想

── 前回のインタビューからおよそ1年が経ちました。ポケットサインとしていちばん大きな変化は何でしたか?

自治体領域での導入が一気に進んできたことですね。とくに規模の大きな自治体への展開が広がって、公共部門でのビジネスとしての広がりがかなり具体的に見えてきました。

昨年は山形県に導入していただき、県庁所在地では大津市でもアプリがスタートしています。さらにこの春にかけては、京都市と北海道全域での導入も決まりました。自治体のなかで「地域アプリをつくる意義」が認識され始めている、という手応えを感じています。

── 導入の文脈も変わってきているんですよね。

そうなんです。去年は防災意識の高い自治体が中心でした。山形県などもそのケースです。
ところが今年に入ってから、新しいトレンドが出てきました。物価高対策として、住民に本人確認のうえで地域ポイントを配布したい、というニーズです。

ただ、以前のプレミアム商品券のような取り組みと何が違うかというと、「配って終わり」ではないという点です。給付をきっかけにプラットフォーム型のアプリを市民の手元に普及させて、その基盤を使ってさらに他の分野の行政DXへとつなげていく。そういう構想が前提になっています。

── それはもともと宮城県で取り組んできたモデルですよね。それがいよいよ全国に広がってきた、という感覚でしょうか。

まさにそうです。給付をきっかけにアプリを普及させて、その基盤で行政DXを進めていく。このモデルが、京都市や北海道といった大きな自治体でも採用され始めています。

私たちは最近、「ばらまきではなく、種まきへ」という言い方をしています。給付で終わるのではなく、その後も住民の手元に残り行政サービスの基盤になっていく。そういう発想です。

防災アプリのときに大きな課題だったのは、サービスをどう普及させるかでした。一方で給付事業は、自治体にとって必ず発生するものです。そこに地域アプリを組み合わせることで、一気に住民へ届けることができる。最近になってようやく、「世の中に受け入れられてきた」と感じる場面が増えてきました。

── 社会や日本の未来に対する問題意識も、この1年で変化はありましたか?

去年と比べて、少し考え方が変わりました。前回は「生産年齢人口の減少による社会制度の維持を、どうデジタルで支えるか」という話をしていたと思います。

最近は、そもそも現状の社会システムをそのまま維持すること自体が難しいという前提で考えるようになってきました。古代ローマ帝国でも、イギリス帝国でも、盛り上がって必ず下がっていく。大事なのは「次の社会構造が内発的に生まれること」だと。人口は減りますし、地方から人もいなくなります。デジタルだけでそれを止めることはできない。だから問題は、その先にどんな社会を作るかだと思っています。

たとえば身分制度の固定化が行われていた時代には、職業選択の自由はなかった。人権という概念すら、少し前の当時の日本にはなかった。電気の発見は、身の回りの生活をすべて変えた。当時の人たちからすれば、いまの私たちにとって当たり前のことでも、そんな未来がくると聞いても信じられないほどの変化に感じるでしょう。それくらい社会は非連続に変化するんです。

30年後には、AIと人間を区別しない社会になっているかもしれない。ヒトと区別のできないヒューマノイドロボットが当たり前に道を歩いているかもしれない。そうした想像を超えた変化の中で、私たちが作っているデジタルIDは「次の社会の基盤」として重要な役割を持つはずだと考えています。

「Not a SaaS」──事業の型が見えてきた

── 今のポケットサインの強みは、どこにあると思いますか?

一番大きいのは「独自の事業の型」が見え始めていることだと思います。現在、大きく3つの事業が動いています。自治体向けの公共事業、民間企業向けのプラットフォーム事業(PocketSign Verifyなど)、そして民間企業・個人向けの新規事業です。

変わらない強みでいうと、私たちは公的個人認証法の大臣認定を持つ会社として、認証・ID基盤・サービスまでを一気通貫で提供できることです。多くの場合、こうした仕組みは複数の企業が連携して提供しているため、スピード感が失われたり、「アプリを2つダウンロードしてください」といったユーザー体験の分断が起きてしまいます。そこがないのはずっと変わらない強みです。

── 公共領域では、どのような「型」が見えてきたのでしょうか。

最近、社内で「Not a SaaS」という言い方をしています。もともと自分たちの事業を標準的なSaaSだと思ってきたわけですが、今は違うと考えていまして。

自社プロダクトを育てて普及するモデルであることは間違いないのですが、顧客がいわばエンタープライズ型であり、また提供するサービスが顧客の中枢ミッションと深く結びついている。そうとなると、顧客ごとに事情が異なる課題があり、その解決には単なるツールとしてのサービス提供だけでは至らない。私たちの地域DXプラットフォームは、「地域をどう豊かにするか」というテーマと直結していて、紋切り型のSaaS営業よりも、DXコンサルに近い形になります。

自治体ごとの状況を理解して、最適な方法を一緒に設計して、成功まで伴走する。以前は事業を型化することばかり考えていたのですが、「共通して型化できる部分は育てつつ、顧客ごとの個別性にもとことん付き合う」と認めたことで、逆に事業がうまく回り始めました。

「筋トレ」の積み重ねが、簡単には真似できない差別化になる

── 競合が増える中で、差別化はどこにあると思いますか?

公共領域でいうと、やはり一気通貫で提供できることです。認証だけ、サービスだけ、ではなく、全国の提供事例をモデルとして保持しつつ、行政DXを総合的に支える「総合商社」のような存在になれている。そこは大きいと思っています。

難しい案件を真正面から受け止め続けてきた結果、組織としての筋力がついてきたとも言えます。ドキュメントやノウハウも蓄積されてきていて、これはいわば筋トレのようなもの。一朝一夕には真似できない差別化になっています。

民間領域のプラットフォーム事業では、柔軟なシステム提供が強みです。共同創業者の澤田が大事にしてきた「デベロッパーエクスペリエンスを最適化する」という思想を徹底してきた結果、最近は海外の大きなテクノロジー企業にも選んでいただけるようになってきました。

── 今いるメンバーだからこそ実現できていることは何でしょうか?

エンジニアとそれ以外のメンバーの距離が近いことですね。シャッフルランチなどの取り組みもそうですし、私や澤田自身もよく話すことそうで、「世の中に良いものを生み出す」という一体感をもって日々の仕事と向き合っている。これはポケットサインらしさだと思っています。

もう一つ大事にしているのが、スピード感です。これは私たちのミッションにある「誠実であろう」という考え方と直結していて。スピードって、誠実さそのものの表れだと思っているんです。

素早く返事をする、すぐに動く。それって要は「ペイアテンション」、つまり「あなたに注意を払っています」ということの、これ以上ない表し方なんですよね。

私たちの事業は自治体のDX基盤や認証システムなど、お客様にとって非常に重要な部分を預かっています。スピードを通じて「この人たちはちゃんと自分たちのことを考えてくれている、だったら任せていい」と感じていただけるかどうか。そこが信頼を生み事業の成長に結びついていく、そんな循環が生まれていると思っています。

── 逆に、組織としての課題はどこにあると考えていますか?

一つは健全な議論をする力です。うちのメンバーは、社会のためになることをやりたい、という公共心の強く、優しい人が多い。これはとても良いことなんですが、反面、行き過ぎると議論する力が弱くなることがある。例えば、全社ミーティングなどの場で、「質問ありますか」と聞いても、あまり手が上がらないことがあります。問うことは本来、新しいものを生むことの根本だと考えています。問う力があるから、深い知見を持つようになり、専門家として顧客に信頼していただける。その循環が回ると思っているので、この「問う力」と姿勢はもっと強化していきたいです。

もう一つは、事業の成長スピードへの対応です。ありがたいことに、公共も民間もお客様が急増しています。ただ、案件の増加と併せて社内体制を整えていかないと、どこかで品質を維持できなくなる可能性もある。私たちは品質への信頼で選ばれている会社なので、そこは絶対に崩せない。高度な知識と責任感をもって、専門家としてお客様と向き合えるメンバーを増やしていくことが、今の組織の大きなテーマです。

公共×民間、同時進行で育てていく

── 次に取り組もうとしている大きなテーマを教えてください。

公共と民間の両方を同時に育てていくことです。公共領域ではすでに大きく4つの柱が見えています。防災、地域ポイントなどの経済施策、コミュニティや関係人口など地域の交流を生み出す仕組み、そして行政領域での生成AI活用です。なかでも生成AI活用は非常に大きなテーマになると思っています。

たとえば現在、行政の窓口対応や問い合わせ対応はコールセンターなど外部に委託されるケースも多いのが現状です。しかし、住民にデジタル基盤が広がれば、こうした対応はデジタル空間で完結するようになる。AIが一次対応を行い、対応できないものだけ人間に回す、という構造が増えていくはずです。

住民が「最近子供が生まれた」と伝えると、生成AIが子育て支援の制度を提示し、本人認証が行われたうえで、手続きが自動的に進む。そんな世界はそう遠くない未来だと思っています。私たちはその仕組みを先駆けて作りにいけるよう、今まさに取り組んでいるところです。

── 民間領域では、どのような挑戦を進めていきますか?

新規事業の立ち上げが大きなテーマです。HR領域もその一つですが、私たちのサービスはHRだけに閉じるものではありません。相続なども含めたライフイベント全般と、非常に相性が良いと考えています。

引っ越しや属性変更など、個人の情報は常に更新され続けるものです。企業側でもそのアップデートに追いつけないケースは多く、こうした情報を一元管理できる共通基盤を整備していきたい。その第一歩がHR領域になります。大局的には、人と組織の相性、人と人の相性という課題を、デジタル・アイデンティティを扱う会社として、テクノロジーで解決する仕組みを探っていきたいと思っています。

── 「信用のDX」を実現するうえで、プロダクト面での大きなアップデートも予定していますよね。

そうです。これまでのポケットサインはネイティブアプリを中心とした基盤でしたが、ウェブでも利用できる形に広げていきます。

これによって、たとえば他社アプリの上でポケットサインの機能を動かすことができるようになります。実際、ある自治体では、交通系アプリ上で弊社の行政サービスを動かす仕組みにも、この技術を応用していく予定です。

また、役所の窓口で職員と一緒にパソコンから登録作業を行う、といったことも可能になりますし、NFC(近距離無線通信)に対応していない端末でも利用できるようになるなど、スマートフォン操作に慣れていない方でも使いやすくなり、利用範囲は大きく広がります。

民間サービスとの連携も変わります。これまでは「ポケットサインのアプリをダウンロードしてください」という形式が多かったのですが、今後はその必要がなくなります。たとえばECサイトで本人確認が必要な場面でも、ウェブ認証でサクッと確認して、元のサービスに戻れる。

また、事業の根幹となるID基盤についてもアップデートをしていきます。適切に個人情報の取り扱いの同意を得たうえで、業界内の複数の事業者のデータを統合したり、グループ企業間で顧客情報の名寄せ(複数のデータベースに散在する情報を一つに統合すること)を行ったりすることも可能になります。さまざまなサービスの中にポケットサインが溶け込んでいく、そういうイメージです。

衰退の先にある社会を、一緒に描いてほしい

── 最後に、ポケットサインに興味を持っている方へメッセージをお願いします。

やはり一番大事なのは、ミッションへの共感だと思っています。

いま日本は大きな転換点にあります。おそらく10年後に振り返ったとき、「思っていた以上の転換点だったな」と多くの人が思うくらい、社会の構造が変わってきているタイミングなんです。

そこに対して、私たちのようなスタートアップがやるべき役割は、次の姿を描くことだと思っています。

これから日本は未曽有の生産年齢人口の減少を迎えます。これほど情報化が進んだ社会で初めて経験する「衰退」を前に、その先にある「非連続的に変化した社会」を一緒に描いて、希望を実際に実装していける会社でありたい。そういう取り組みに熱量を注いでいただける方にぜひ来てもらえたらと思っています。

取材協力:株式会社ソレナ

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